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【2011年4月8日 渋谷トレードハウス前にて】
 ひさびさに緊張している。
 今日は直接トレードをあるユーザーさんに提案されて待ち合わせ。
 そのユーザーさんは、ユーザーデザインアイテム第14弾と今回の第15弾で連続採用という快挙を成したデザイナー。
 今回の第15弾で採用された彼女のワンピースがすごく大人っぽくていいなって思っていたから、パンツドレスとの交換を持ちかけられたときはうれしかったなあ。
 うれしいさ。
 だって自力じゃクリック戦争に勝てないんだから。ねえ運営さん。
「こんにちは~^^」
 いらっしゃった。“杏樹”さん。ご自身デザインのワンピースをお召しだ。
 グレイッシュなブルーというか、ややパープルがかったブルーというか絶妙に爽やかで艶やかな色味のミニワンピ。
 あえてボディラインにコンシャスさせないゆったりシルエットと、巧妙な丈の見極めでエロティックに踏み込まず一歩手前でセクシーを完結させている脚の魅せ方。
 胸元のマーブル模様とオープンショルダーが艶やかだけど、ランタンスリーブの袖口と、大きなドレープの裾を黒のリブがきりっと引き締めて大人感がすごい。
 第14弾のときの彼女のデザインはデタッチドスリーブのニットだったから、杏樹さんの肩と二の腕まわりのフェティッシュが伝わってくる。
「はじめまして、こんにちは^^」
 わたしが挨拶を返すと、なんというか声の調子まで聞こえてくるような体育会系の後輩感あふれる言葉が返ってきた。
「だめもとで提案してよかったです!! 応じてくれてありがとうございます!! とっても嬉しい!!」
 なんのなんの、わたしにとっちゃ棚からぼたもち。
「こちらこそありがとうだよー わたしもあなたのワンピ今回一注目してたもん」
「マジですか!」
「マジマジw えーまた入手できなくて悔しい思いするじゃんって途方にくれてたw」
「www」
「では早速交換しましょうか」
「はい!」
 交換が滞りなく完了してトレード画面を閉じると、どちらからともなくその場で着替えた。
「あーわたし靴用意してなかった。足元残念になっちゃったけど、やっぱりこの服かわいいね^^ 杏樹さんもパンツドレス似合ってる」
 今日は前回採用のムートンベストと、デニムの膝下ハーフパンツのコーデに合わせたフリンジブーツを履いている。カジュアルなブーツが杏樹さんのショートワンピには合わない。ブーツサンダル持ってくればよかったなあ。
「かあいい」
 杏樹さんはいろいろポーズをつけて喜んでくれているようだ。
 わたしのパンツドレスは、膝下丈の裾が大きく膨らんだランタンパンツのシルエットが着るキャラの体型を選ぶみたい。足が細かったりするとちょっと私のデザインしたイメージからずれるのだけど、スマートな杏樹さんにも似合っていた。
「杏樹さん2連続採用でしょ? すごいよ」
「そうなんですよおおおお ハアハア」
「ハアハアwww」
「過去にないらしいですよね」
「ないと思うよ」
「前代未聞のイリュージョンです!」
「^^」
 なんか、嫌味のないひとだなあ。
「ようりさんて、デザイン学校とか通われてました? 絵が上手なので」
 わたしは採用されなかった作品をSNSの日記でボツ作品として晒しているからそれを見たのかな。まあ、社交辞令よね。
 わたしの絵の程度を自己評価するなら、昭和の中学生がノートに描いていたら上手とちやほやされるかもしれない程度のクオリティ。それもそこそこ本気モードで描いた場合のはなし。
 応募した作品は解説を添えて“伝える絵”だから、数分で描き上げたデッサン程度の仕上がり。
 もちろん、だれもがイラストを公開できるこのネット時代では、仮にわたしが“表現する絵”を本気で描いたとしても、うまいという賛辞は得られないだろう。
 たとえばあるユーザーさんは多くの作品を応募していていまだ未採用。男性マイキャラの中の“彼女”は、ボツ作品をご自身のブログで公開されているけれど、どれも着てみたいと思える良いデザインだから採用しない運営のセンスを疑ってしまう。もっともまれに素人には難しいセンスを発揮されるけれど。
 そんな“彼女”のイラストのクオリティは、仮に自分のイラストを隣に並べるとしたら、恥ずかしくてモザイクかけたって拒否するレベル。
 卑下するつもりはないけれど、実際わたしはそういう方たちの足元にも及ばない。
「いえまったくw」
「天性ですかすばらしい!!」
「天性www そんなアレじゃないよ」
「アレですよお 次も期待してます!」
 思えばほかのデザイナーさんと話すのは初めてだ。すこしデザインアイテムについて話してみたくなった。
「いまね、夏物の半そでスーツを送ってあるの」
「おおお 想像できないけど凄そう」
「w 今回採用されたのそれかと思ったんだけど、14弾の時期に送っててボツかと思ってたパンツドレスが採用w」
「そうだったんですね スーツ次かもしれないですね」
「うん、わりと自信作だから期待してる。80年代のリバイバルだけどね^^」
「80年代!」
「うん、セーラーが流行ったころがあって。水兵をイメージした服。基調は白、ハイウエストのひざ下丈ワイドパンツ。ダブルのシングル掛けショートジャケットとヘソ見えチューブトップのコーデ」
「想像以上の凄さwww」
「www」
「私も80年代風の白ミニレトロも描きました 白ミニだけで5着くらい送ってる」
「それもすごいなあ」
「ようりさんもです?」
「わたしは本気とネタに分けて送ってるんだけど、自分でも信じられないけど本気4作中の2着が採用」
「5割!! すごいいいい>w<;」
「いや、ネタの方が多いからw ネタ全ボツだしww でも昨年から今年にかけていろいろツいてるのよ、こわいくらいw」
「でも杏樹15着くらい送ってるので、運営さん同情したのかも だからの2連続かな」
「そんなことないよ! 14弾、デタッチドスリーブのニットかわいかったもん」
「えええ;;」
「背中もポイントだったよね」
「うわあ ちゃんと見てくださってるう ありがとですう;w; 袖に注目する人多いですけど、そうなんですう」
 見てるよ。お世辞は言わない。かわいかったよあれ。
 杏樹さんはくるりと回るとポーズをつけて言った。
「夏! 期待しましょうね!!」
 期待?
「どうせなら取りにいこうよ。採用!」
「はい! 取ります!!」
「おたがいがんばろう」
「うんうん!^^ ではこのお洋服大切にしますね^^!」
「じゃあ、またね^^」
「はい! ありがとうございました!」
「こちらこそ^^ ありがとう では^^」
「どろんw」
 なんか、緊張したけどうまくできたかな。
 ところでこのワープのときの「どろん」て昭和のおやじギャグ、また流行ってんの?
 若い子は逆に新鮮でうけてるとか?
 ならわたしも使おうかな。

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