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10年前の9月1日、おれは浮かれていた。
最近、雑誌ブルータスの仕事で行ったウガンダ出張について思い出すきっかけがあって、いつだったかなあとFBを見てみたら、2014年9月1日に「ウガンダ決定!」と投稿していた。ちょうど10年前かあ!
思い起こすと、当時はアフリカでエボラ出血熱が発生していて、ウガンダでも患者が増えていた時期だった。たしかそれでライターさんが何人もこの仕事を断って、困り果てた編集部に「行きそうな人材」として情報が入り、「来週、ウガンダ行かない?」と声がかかったらしい(やります!と即答した笑)。
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当時のFBによると、スケジュールは2泊4日という超強行軍。でも、ハイパーメディアクリエイターの高城剛さんと一緒に、現地でアルコール手指消毒剤を製造販売している宮本さんを訪ねる旅は、いろんなハプニングを含めて笑、本当に楽しくていい思い出だ。
例えばこんなことがあった。
2014年9月10日のこと。
朝食を終え、取材の用意をしに5階の部屋に戻る。
エレベーターに乗っていると、突然、ガタンッ!と衝撃。そして真っ暗闇になった。
まさか、と思ったが、まさに想像の通り、停電でエレベーターが停止。そこに一人で取り残されてしまった。何を隠そう、僕は閉所恐怖症で狭くて小さいスペースに閉じ込められることをすごく恐れている。
「落ち着け…」と自分に言い聞かせ、スマホを見たら圏外。
エレベーターには「止まった場合」という注意書きがあり、電話番号が書いてあるのだが、まるで意味なし!
ていうか、一緒に取材に来ている誰にも連絡が取れない。自分がヤバいうえに、仕事もヤバい。注意書きには「パニックにならないで!」と書いてあるが、恐怖心と焦燥感で全身から汗が噴き出してくる。
落ち着け、落ち着け。
緊急呼び出しコールを押す。
サイレンのような音が鳴る。
何度も押す。
だけど、誰からの応答もない。
悪い予感が頭をよぎる。
ここはアフリカだぞ。2時間で着くと言われたところに5時間かかる国だぞ。俺は昼過ぎか、下手したら夕方ぐらいまでここに閉じ込められるのか。。。
スマホを見ると、既に10分が経過し、集合時間になっている。閉所の圧迫感を忘れるために、目を閉じる。とにかく、外界との接触手段は緊急コールしかない。何度も、何度も押す。
すると、女性の声で「ハロ~」と間の抜けた挨拶が聞こえた。
反射的に「エレベーターイズストッピング!!!!!プリーズヘルプミー!!!!!」と叫ぶ。
それに対し、女性は「オ~ケ~」と答え、ブツッと音声が途切れた。
なんだ、いまの緩い返事は。話は通じているのか。俺の魂の叫び声は君に届いてるのか。絶望的な気持ちに襲われつつ、会話ができたことで少し落ち着いた。
少なくとも、エレベーターがストッピングして、ヘルプを待っている男がいることだけは伝わった。
そう信じた。
それから数分後、エレベーターに光が戻った。そして動き始めた。ホテルの自家発電機で動かしたのだろう。
この時、僕は人生で5本の指に入るほど「ほっ」とした。
エレベーターは1階で止まり、閉所地獄から解放されたが、誰が迎えてくれるでもなく、ホテルはさっきまでの日常がそのまま流れていた。食堂にいた取材チームに「いま、エレベーターが止まって…」と話したら、「あ、そうなんですか、なんか鳴ってましたもんね」と流される。
たった10分、15分の出来事だからほかの人にとっては大したことじゃない。緊急コールで対応してくれた女の子にとっても、日常茶飯事なのだろう。
なぜか一抹の寂しさを感じつつ、とにかく、取材に行かなくては……と5階の部屋まで階段を駆け上ろうと思ったけど、足がガクガクして登れなかった。
その後の取材は万事うまくいった。
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ゴンベという村でいろいろと撮影し、ついでに赤道の分岐ラインにも立ち寄った。
自分へのお土産にウガンダ代表のユニフォームも買った(10ドル)。
この2日、とても充実していた。
夜は取材チームで「お疲れ様!」と乾杯。
今回の取材の特別ゲスト、高城さんに「いやー、閉所恐怖症で、アフリカでエレベーターに閉じ込められるって最強に怖いでしょ。一生の思い出だね!おいしいね!」と褒められた(?)。
確かに人生どれだけネタがあるかは大切なことです。
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なんてことを考えて、ホテルまで帰っていたときのこと。
カンパラには街灯がなく、ほぼ暗闇のなか、道路を横断しようと中央分離帯をわたっていたら、「おっ!!!」と短い叫び声が。
え? と思って振り返ったら、高城さんが中央分離帯の真ん中にぽっかり空いたマンホールほどの穴に落ちかけ、両手で身体を支えてぶら下がっていた。
ええええ!!!!
すぐに救出し、事なきを得たが、穴の奥を照らしてみたら2メートルぐらいあって肝が冷えた。もし反射的に両手を広げていなかったら、2メートル下の穴に落ちていた。
ケガは間違いないし、どう助けていいのかもわからない。
高城さんはタフな人なので「いやーこれがアフリカだね!」と言って笑っていたが、それにしても何のための穴なのか。
そして気づいた。
特別ゲストの事件のほうがインパクトがある。
俺より、おいしい。高城さん、さすがっす。
この取材が掲載されたブルータスでは、デビュー戦にして特集の巻頭というミラクルで、エボラにビビらず、弾丸でウガンダ行って良かった!
ブルータスの仕事はその一度きりだったけど(未熟だったかな笑)、24歳でフリーライターになって20年、今も忘れられない思い出の仕事になってる。
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