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あの日、僕は一休さんと呼ばれた。

ツイッターでお寺のことを呟いてたら、ふと2012年に起きた珍事を思い出した。探したら当時のブログに残っていたんだけど、思い出深いからここにコピペする。

昨夜、タイマッサージに行った。
日本語の達者なタイ人の女の子が、マッサージをしながら俺に言った。
「あなた、一休さんみたいね」
その一言で、懐かしい記憶が蘇った―。

―2008年6月、サッカーアジアカップの取材で俺は1ヵ月ほどタイにいた。
バンコクはうだるような暑さで、俺はタイで買った白いペラペラのシャツとタイパンツ、ビーチサンダルというジャーナリストにあるまじき格好で取材していた(あほ)。


滞在間もないある日、ちょっと涼みにデパートに入り、電気屋の前を通りかかると、並んで置かれたテレビの前で大人も子供も足を止めていた。


何かと思って近づくと、まさにアニメ一休さんが放送されていた。おっ!と思って一緒に観ていたら、子どもに「あ、一休さん!」と指差されたのであった。調子に乗って手を合わせたら、老若男女から拍手を浴びた。

その後、長期滞在で仲良くなった屋台のおばちゃんや常連のおっさん、物売りの子どもなどなど、多くの人に一休さんと言われて過ごした。

どうやら熱心な仏教国のタイで、一休さんは大人気のようだった。そして、バリカンで髪を1mmに刈っている日本人は珍しいらしい。おばちゃんには「日本人で頭を丸めている人は犯罪者(刑務所帰り)かお坊さんしかいないはず」と言われた。「俺はジャーナリストだ」と胸を張ったら、わかりやすい嘘だと思われた。

あまりに一休、一休と言われるので、ある日、俺は自分のひげを指差し、「一休さんはひげを生やしていない。だから一休さんではない」と宣言した。

そうしたら、屋台のおばちゃんはきょとんとした顔で、「なに言ってるの、あんたは大人になった一休さんでしょ」と突っ込まれた。
屋台のおばちゃんのトンチの効いた答えに、僕は見事に一本取られたのであった。―

―そして昨夜、である。やはりタイ人にとって俺は一休さんのようだ。


マッサージを受けている途中なのに、お姉さんに「一休さんのポーズをして」とせがまれ、手を合わせたら「違う違う」。


あ、そうか、と4年前のタイを思いだし、両手の人差し指をこめかみに当ててクルクルさせたら、手を叩いて喜んでいた。俺は何をやってるんだ。ま、いっか。

会計の時、受け付けをしている別のタイ人の女の子に名前を聞かれた。「一休です」と答えたら、心底マジメな顔で「ほんとに?」と聞き返された。


そんなわけないだろ!と思いつつ、「うそうそ」と言ったら、「一休さん、嘘ついちゃダメ」と突っ込まれた。タイ人女性は、突込みが鋭い。その後、一休さんの話題でひとしきり盛り上がった。

帰り際、受け付けの女の子が笑いながら僕の股間を指差した。ズボンのチャックが全開だった(タイパンツに着替えてマッサージを受けていたからね)。

女の子は得意げに言った。
「会社の窓が開いてます!」
惜しい!っていうか、よくそんな言葉知ってるな!
「会社じゃなくて、社会の窓ね」
俺はチャックを閉めながら、冷静に訂正して、まるで友だちのようにバイバーイと言われて店を出た。


ドアを閉めながら、また人差し指でこめかみをクルクルしたら、2人は笑顔で手を合わせ、頭を下げた。

ちなみに今後、僕がその店で予約をするときは「一休です」と言えば良いそうだ(どんな店だ)。

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