稀人アカデミアvol.8「目からウロコのチョコレート。カカオ豆から広がる仕事と世界」主催者レポート!
昨夜は、稀人アカデミアvol.8「目からウロコのチョコレート。カカオ豆から広がる仕事と世界」だった。ゲストは、カカオの選別からチョコレートの製造・販売までを一貫して行なう「Bean to Bar」の先駆者「Minimal」の代表・山下貴嗣さん。
「Minimal」は、日本のメーカーとして初めて「インターナショナル チョコレートアワード 世界大会2017」で最高賞「ゴールド」を受賞している新進気鋭のクラフトチョコメーカーだ。いかにもクールで斬新なイメージがある。でも、1年のうち4カ月、カカオの買い付けで世界を巡る山下さんの話はアツくて、泥臭くて、一言でいうなら、僕は痺れた。
ベンチャーの起業家は、そのブランドの顔である。そのブランドイメージを保つために、本心ではなく、会社として伝えたいことを話す起業家もたくさんいると思う。それはぜんぜん悪いことじゃなく、むしろ当たり前だ。でも、山下さんの言葉は、自分の胸のうちから出てきたものだったと思う。フルオープンに近い感じで、起業から現在に至るまでの数々の決断、カカオの世界の厳しい現実、現実を知るからこその苦悩や興奮を語ってくれた。
なんでだろうと考えたら、ふたつ思い浮かんだ。ひとつは、カカオ豆の生産者とのかかわり。山下さんはいいカカオ豆を求めてこれまでに30ヵ国、300超の農園を訪ねてきたそうだ。そのなかにはブランディングとかマーケティングという言葉とは対極にいる、シンプルな生活を営みながら高品質のカカオを作る生産者もいる。
僕の勝手な想像だと、そういう人たちとの信頼関係を築くのに、自分を「飾る」とか「盛る」必要はない。ミニマルはカカオと砂糖以外になにも加えない「引き算」のチョコレートが特徴だけど、1年の3分の1もそういう人たちとコミュニケーションを取っているうちに、山下さんも引き算されて、そぎ落とされて、今の山下さんになったのかなと思った。
もうひとつは、「モノづくり」への思いだ。山下さんの話のなかで印象的だったのは、子どもの頃、建築家をしていたお父さんが地元で「お化け屋敷」と言われていた家を買ったという話しだった。その家をリノベーションした時に、自分が作ったものを満足そうに眺めるお父さんの姿を見て「かっこいいな」と思った。それ以来、モノづくりする人への憧れを抱いた山下さんは、ミニマルでも最初の頃は職人のように毎日チョコを作っていたそうだ。
今は経営者に徹しているけど、山下さんのなかには生産者とか職人といった「モノづくりをしている人」への尊敬と憧れが今も強く残っている。真摯にモノづくりをしている人たちは、自分の言葉の端々にまで正直だ。その点でいえば、山下さんはクラフトマンの魂を持った経営者なんだろうなと思った。
オフレコの話も多かったから(笑)、どんなトークだったのか事細かには記さないけど、今回、特に印象的だったのは、カカオを買い付ける時の交渉の話。値付けや買い付ける量、物流の問題とそれにまつわるハードなエピソードはどれも日本で暮らす者には想像もつかないものだった。
優秀なカカオ農家のもとには、世界中からバイヤーが訪れる。巨大メーカーと比べればミニマルが買い付けられる量は微々たるもので、人気農家にとってはミニマルに売るインセンティブがない。でも、山下さんはそのカカオが欲しい。
そういうハードな交渉の際、山下さんは最終的な口説き文句として「一緒にもっといいカカオを作ろう。それで世界一になろう」と訴えると聞いて、鳥肌が立った。それを意気に感じて売ってくれた生産者との約束を守るために、山下さんは毎年、現地を訪れる。そういう産地がたくさんあるから、1年のうち4カ月も海外を飛び回っているんだ。
稀人アカデミアは、答えのない世の中で生きていくためのヒントやインスピレーションを参加者に感じてもらいたいと思って開催している。昨夜は僕自身も貴重な気づきを得た。とても気持ちのいい夜だった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?