「国葬」の翌日に反「国葬」の映画『REVOLUTION+1』を見にゆく。
足立正生 監督作品「REVOLUTION+1」を見るため、午後から大阪。映画は夜からなので玉造まで行って、日清戦争の際に捕虜となった清国兵士の墓を参ろうかとひさしぶりの真田山陸軍墓地へ。二時間ほどをだれもいない広い墓地の墓石に刻まれた来歴を読み乍らあるきまわる。一人びとりの死が水を吸った真綿のように積み重なるようで、こころが重たくなってくる。明治の墓は伝染病もあるのだろうが、どれだけ「病死」が多いことか。墓石の間をあるけば「病死」「病死」「病死」ばかりだ。新宮矢倉出身の軍医の墓もあった。 明治十年ということは、いくつで亡くなったか記していなかったが、若ければ大石誠之助と同世代くらいではないか。ひょっとしたら知り合いであったかも知れない。
陸軍墓地を出て、上本町まであるいていき、開店時間待ちで近くの公園で時間を潰し、キッチンもとやで早目の夕食を済ます。日替わりのとんかつ定食、ラーメンが付いて450円。格安食堂はまだまだ健在だ。それから生國魂神社のわきをぬけて、まだ開場時間には間があるので、そろそろ日が暮れてきた道頓堀にかかる下大和橋のベンチや、会場に近い日本橋の交差点で道行く人を眺めながら過ごす。人によってはもう少し気の利いたところへ行くのだろうが、わたしには こんな過ごし方しかできない。
18時半、会場である宗右衛門町のロフトプラスワンウエスト。狭い会場にぎっしり、満員だ。ざっと百人ほどだろうか。暫定編集版の上映は50分。最終的にはもうすこし追加されて本編となるらしい。シン・ゴジラでいえば、まだ第二形態といったところか。最終版ではないので、感想は控えよう。
上映後の監督を交えてのトークがさらに二時間半、しかもゲストも多彩で、内容も濃かった。足立監督が元日本赤軍メンバーでパレスチナ解放人民戦線のゲリラとして活動していたことすらもじつはよく知らなかった。ゲストは他にフランス文学者でミュージシャンの鈴木創士、ロックバンド「ガセネ タ」「TACO」の山崎春美、司会は最近まで森達也監督の福田村事件の映画撮影に参加していたという映画監督・脚本家の井上淳一。さらに飛び入りで作家の赤坂真理、またミヤネ屋の番組プロデューサー氏なども統一協会から裁判で訴えるなどの圧力を受けている等の話を披露してくれた。そのトークのときに、わたしが忘備録としてスマホのメモ帳に書きつけた言葉をそのまま、ここに並べておく。余白は各自で想像したらいい。
共同体から離脱する共同体。
山上はなぜ一直線だったのか。
わたしたちは社会の底、政治の底が抜けてる酷い世界に生きている。
戦後のブラックボックスの象徴として安倍が死んだ。
大日本帝国も相当のカルト国家だった。
60年安保では「岸を 殺せ」がシュプレヒコールだった。
60年安保は極東裁判で無罪になった岸を断罪するためのアクションだった。
革命家は勝利するまではずっと革命家だ。
山上はどこを向いても底が抜けているし、壁が立ちはだかっている。そんな世界で生きていた。
最高裁の正門は皇居に向かっている。それを見たときにこの国の民主主義はこういうものなんだ、この裁判(原発訴訟〉は負けるかも知れないと思った。
山上徹也のじっさいのTwitterなどの言葉は(映画では)あえて使いたくないと思った。
山上を精神異常者にすれば蓋ができる。冗談じゃない、という思いでこの映画を撮った。
監督は国家が「国葬」というイベントをやるのなら、こちらもおなじようにイベントをしてやろうと思ってこの映画を製作した、という。当初の構想では、映画 の最後はその国葬会場を爆破するつもりで、じっさいにその場面も撮影した。だが、それではほんとうの決着にならないと思いなおしたと言う。今回の暫定編集版では、主人公の妹が事件後に「お兄ちゃんがやったことは尊敬する。でもわたしは、わたしができる別のやり方をいつか見つけたい」とカメラに語りかける。
1939(昭和14)年生まれの監督は御歳83歳だ。かれは「日本をこんな底の抜けた社会にしたのは間違いなく安倍晋三だが、わたしたち一人びとりもまたそれに加担した犯罪者だ」と語った。その日、会場に集ったのは紛れ込んでいた公安を抜かして(笑) 全員、国賊であり、非国民であり、犯罪者であった。 83歳の監督を熱い眼差しで見つめる若い青年や女性の姿もあった。わたしは、けっしてじぶんが一人ではないのだと慰められた。いまここでこの瞬間だけマボロシのように偶然にあつまって、またそれぞれの「個」へ散らばりもどっていくのだ。JRのなんば駅まであるき、 奈良の自宅へ着いたのは夜中の0時近かった。駅前のセブンで、ささやかな祝杯に缶ビールと冷凍の鶏皮柚子胡椒焼きを買って帰った。
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