會田 陽介

東京都足立区生まれ。1996年から奈良県に移住。2022年、朝日新聞社Web論座にてライターデビュー。2024年、韓国で公開予定のドキュメンタリー作品に出演予定。自転車と墓地めぐりをこよなく愛する。家族に妻・娘・犬・猫。 email1◆marebit.sakura.ne.jp

會田 陽介

東京都足立区生まれ。1996年から奈良県に移住。2022年、朝日新聞社Web論座にてライターデビュー。2024年、韓国で公開予定のドキュメンタリー作品に出演予定。自転車と墓地めぐりをこよなく愛する。家族に妻・娘・犬・猫。 email1◆marebit.sakura.ne.jp

最近の記事

【日記】大阪・上本町へ『「人類館事件」を知っていますか? 博覧会と差別』展を見てきた

 休日、大阪・上本町の大阪国際交流センターへ、企画展示『「人類館事件」を知っていますか? 博覧会と差別』を見に行ってきた。  「人類館事件」については以前に関連書を買ったこともあり、すでにある程度の知識はあったが、いまはなきリバティおおさか(大阪人権博物館)が今回、主催ということも興味があったし、併せて『「人類館事件」は、本当に“事件”だったのか?』と題した金城カナグスク馨氏の記念講演を聞いてみたかった。  金城氏はもう6年も前になるが、天満の国労大阪会館で開催された海南

    • 【日記】メガソーラー開発の現場で剥ぎ取られた摩崖仏痕を前に考えた

       山の登りはじめはきつい。  身体中の毛穴という毛穴から汗がふきだし、息があがる。肉体がひきずっているだけの無用な荷物のように感じられる。生存のためには必要でない荷物、だ。毛穴からふきだしべたべたと身体中にまとわりつく汗はまるで肉体が貯めていた不快な毒素のようだ。丸太のように思える重い足をひきずって、それでも黙って足もとの岩や土くれをひとつづつ踏んづけてゆく。  陽に透ける植物の緑だけが目に涼しい。座禅とおなじだな。平地でのあれこれの雑念がまだ頭の中を経めぐっている。それ

      • 【日記】大阪・十三で北村皆雄監督傑作選を見る

         ふだんは梯子はしない。酒ではなく、映画や舞台や個展といったものだ。一日に何ヵ所もの個展を見て回ったり、日に二本三本の映画を連続で見たりする人がいるが、わたしにはあれはできない。ひとつでもうお腹がいっぱいになって、その日は牛の胃袋のように何度も反芻しておのれの唾液とともに発酵させ、得も言えぬ異臭をたぎらせるおのれの胃から立ち上る臭気に夢を見るのだ。だから、一日にひとつだけ。  けれど稀に例外はある。先日15日に十三の第七藝術劇場で見た北村皆雄監督作品の二作品である。75年ぶ

        • 【日記】『朝鮮人女工のうた A SONG OF KOREAN FACTORY GIRLS』を観る。

           泉州岸和田の造り酒屋であり第五十一銀行や南海鉄道などの創立・経営にも参加した寺田甚与茂によって1892(明治25)年に設立された岸和田紡績は、全国でもっとも多くの朝鮮人女工を使っていたことでも有名で、その数は1918年からの20年間で5万人ともいわれる。低賃金で大量に雇えるという寺田の経営理念によって当然のことながら、日本の植民地支配によって故郷を追われ、海を渡ってきた年若い彼女たちを待ち構えていたのは最底辺の過酷な労働条件と労働環境であった。イ・ウォンシク監督による『朝鮮

          【日記】世界の枕経としての映画『関心領域』

           ディランの Tryin’ To Get To Heaven という曲に「わたしが見たのは、かれらが見せてくれたものだけ(I only saw what they let me see)」という一節があるが、映画『関心領域』の映像に関していえばまさにそれで、そのままわたしたちの現実ともいえる。この作品は映像が虚仮で、音だけが真実なのだ。何ならところどころうとうとと居眠りをしても構わない。いや、少年が寝室でおそらくガス室で死んだものたちの銀歯のコレクションを広げていたり、庭の肥

          【日記】世界の枕経としての映画『関心領域』

          【日記】ラザン・アルナジャーを忘れる

           まだ娘が幼かった頃、アメリカが「テロとの闘い」を掲げてアフガンの無辜の人々を殺戮していた頃、失業中だったわたしはいかに世界がひどいかということを毎日のように語った。「あなたがアフガニスタンへ行きたかったら行ってきたらいいよ。わたしは紫乃と二人で待っているよ」とつれあいはまじめな顔で言った。いまから思えば、非現実的な与太話だと人は笑うだろう。 「この白衣と神がわたしを守ってくれるからだいじょうぶ」 そう両親に言って苦しむ人々を助けに行った少女は、イスラエルのスナイパー(射撃

          【日記】ラザン・アルナジャーを忘れる

          【日記】劇団石(トル)の「きむきがん済州四・三鎮魂劇 流民哀歌 ―四月よ、遠い日よ―」を観劇する

           はじめに、笊に載せたたくさんのおにぎりとゆで卵が観客たちに配られる。「梅干しとキムチ、どっちがいい? わたしには分からん」 「あんたゆで卵みたいな顔をして」 それは虐殺から山中へ逃れた者たちへ麦飯を運んだエピソードだ。その笊は運よくわたしの席にも回ってきて、キムチだったらいいな、と思いながらラップにくるまれた小さなむすびをひとつ手にした。  それから、紙と棒でこしらえた人形たちがやってくる。いまは亡き済州島の人々であり、日本へ逃れてきた人々の似姿でもある。密航船でみなを日

          【日記】劇団石(トル)の「きむきがん済州四・三鎮魂劇 流民哀歌 ―四月よ、遠い日よ―」を観劇する

          【日記】パレスチナ演劇「Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)」を見る

           12日火曜の夕方。仕事を終えてから訪ねた深江橋のこぢんまりとした「スペースふうら」で見た『Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)』は、ユダヤ系イスラエル人作家のエイナット・ヴァイツマンがパレスチナ人の囚人らと作り上げたドキュメンタリー演劇だ。  三人の日本人役者、一人のイスラエル人役者が「囚人や看守、尋問官などをかわるがわる演じ、入獄、尋問、拷問、ハンスト、独房監禁、日々のルーティーン、刑務所間の移送、家族の面会など、さまざまな獄中の場面

          【日記】パレスチナ演劇「Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)」を見る

          【連載】植松聖に抗う 5

          就業一年が経って、昇級試験なるもの有りと。 提出する論文を折角なのでここにも転載する。 〇〇〇〇(※事業所名)で学んだこと  〇〇〇〇に勤め始めて、というよりは福祉の現場で働き始めてちょうど一年が経ちました。58歳にしてまったくの異業種から転職をしたわたしにとって、一年前は、知的障害者の通所施設も、グループホームでの生活も、それまで覗いたことすらもない未知の世界でした。いまはそれが毎日の「日常」となっています。かつて電車の中などで突然奇声をあげる人を見ると避けたいような気

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          【連載】植松聖に抗う 5

          【連載】植松聖に抗う 4

           年の瀬、当事者のUさんのガイドヘルパーを務めた。Uさんは日中の通所施設の他、わたしが月に何度か泊まり勤務で行くグループホームの住人でもあり、いっしょに風呂に入ったり、テレビでタイガース戦や映画を見たりするので、もうすっかり仲良しの間柄である。ただガイドヘルパーとして出かけるのは、今回がはじめてだ。  予定時間の10分前にUさんのグループホームに着いた。今日の「小遣い」を含めたUさんの所持金を確認させてもらって出発する。ガイドヘルパーを含めた二人分の交通費、入館料、映画館で

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          【連載】植松聖に抗う 4

          極私的 Bob Dylan’s best 10 songs

          ・Rank Strangers to Me ・Born In Time ・Foot of Pride ・ Let It Be Me ・Señor (Tales of Yankee Power) ・Tangled Up In Blue ・Covenant Woman ・Workingman's Blues #2 ・To Ramona ・Spanish is the Loving Tongue

          極私的 Bob Dylan’s best 10 songs

          【日記】大阪朝鮮中高級学校の文化祭を愉しむ

           その間中、ずっと考えていた。存在を否定される国で生きるということ。心ない者から「ゴキブリ」よばわりされ、民族服であるチマチョゴリを切り裂かれ、学校の敷地は「レイプして虐殺して奪った土地」だと広言され、なにかあればすぐに「国へ帰れ」と吐き捨てられ、それらを政治も警察も行政すらも傍観し、むしろかれらをそそのかしているのではないかと思えるようなこの国で生き続けるということを。  この国の朝鮮学校に対する差別やヘイトクライム、裁判闘争についての本や映画に触れながら、朝鮮学校を知ら

          【日記】大阪朝鮮中高級学校の文化祭を愉しむ

          【日記】映画『차별 チャビョル 差別』を見る

           チマチョゴリを切られた少女が舞台の上の白紙に墨汁を叩きつけながら叫び、くずれおちる。差別、嘲り、暴力、無関心、みんな消えてなくなれ!  朝鮮学校無償化訴訟を追ったドキュメンタリー映画『차별 チャビョル差別』(キム・ジウン、キム・ドヒ監督 2021年)を、上映最終日に大阪・十三のシアターセブンで見た。東京、名古屋、大阪、広島、福岡、全国5か所の朝鮮学校と生徒たちが起した裁判は高裁での「除外の適法」が確定した。その連敗の記録はそのままこの国の「あったことをなかったことにする」

          【日記】映画『차별 チャビョル 差別』を見る

          2年後の「福田村事件」――三重県「木本事件」をたどる旅

            山中の深い霧の中を走り続けて、海沿いのその街に着いたのはもう夜だった。さる人からもらったベートーベンの弦楽四重奏のBOXセットを聴きながら走って きたが、上北山村を過ぎたあたりで消した。物の怪や魑魅魍魎の声を聴きたいと思ったからだ。まるで生き物のように音もなく谷筋を流れていく霧がカーブの曲がり目にひょいと切れて、暗い山の臓腑に吸い込まれそうになる。   もともとさびれているその街には別の闇があった。ぬらりとした人の体温のような吐息のような湿度のある闇だ。駅前からほど近い

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          2年後の「福田村事件」――三重県「木本事件」をたどる旅

          劇団タルオルム『さいはての花のために』

          2022年8月7日 大阪・日本橋 インディペンデントシアター2nd  椿は韓国語では동백(トンベク)、漢字では冬柏と書くそうだ。花が丸ごとぼとりと落ちる様子から斬首が想起され、江戸時代の武士は屋敷内に植えることを忌んだという話は、どうも後世のあとづけらしい。一方で椿は、厳しい冬の寒さのなかでも凛として咲き誇るその様子から「忍耐」や「生命力」の象徴ともされ、邪気を払う聖なる木ともされた。最古の神社ともいわれる奈良の大神(おおみわ)神社では毎年2月の卯の日祭において、邪気祓いの

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          劇団タルオルム『さいはての花のために』

          【連載】植松聖に抗う 3

           先日、市の選挙管理委員会の協力も頂き、主に知的障害者を対象とした模擬選挙というものを開催した。会場は市役所のホールをお借りして、ふたつの事業所から延べ30人ほどの当事者が参加した。介助者やスタッフも含めると50人以上が参加した、なかなかのイベントである。はからずも、わたしは市長候補の一人に扮してスピーチを行い、有権者の厳しい審判にさらされた。  この模擬選挙の開催にあたっては、障害者の選挙について興味を持っておられる元大学教授の先生を迎えて、事前に数回の勉強会を開いたので

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          【連載】植松聖に抗う 3