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【読書記録】give & take のマナーって難しい
100分間、夢中で読める中編小説『ハンドレッド ミニッツ ノヴェラ』シリーズとなります。
ポトラッチ(potlatch)とは
北米の西海岸の先住民が気前のよさを競った宴の習慣のことです。
主催者は客たちに食物のほか大量の財物を贈り、威勢を誇示します。客はそれを上回る返礼をすることが義務づけられています。いきつく先は、貴重な私財を壊して相手を圧倒する。という本来の目的を忘れた行為にまで発展するのです。
モースの「贈与論」が有名。文化人類学にも登場します。
◇ 本の中身
正しいことがなによりも強いと信じる愛奈。
クジで2億が当選する。
独特の正義感から、友達はいない。保育士をしているけれど、厳しすぎる性格のため、人間関係をこじらせている。大金を手にした愛奈は、コロナ禍ということもあり、仕事を辞めて無職となる。おなじく無職である、従姉妹の忍が転がり込んでくる。
節約生活をしながら多額の寄付をする愛奈と、借金をしてまで推しに貢ぐ忍の、価値観が交錯し、混ざり合っていく姿がおもしろい。
◇主観
お金がある。それだけで強い。
正しさを行使するのは、もはや暴力といえる時代。正義を主張するひとは危険人物として認識されます。
善意のおしつけに対して、感謝の見返りが足りない。そんなモヤる経験のあるひとは多いと思われます。
行為や物といった、なにかを受けると「なにかお返しをしよう」と思ったり自然とお返しをしてしまう心理として「返報性の原理」という言葉があります。
人間関係は、どちらかにウェイトが傾いた状態になると、不和が生まれやすくなります。バランスのとれた状態は、美しく、善く、好ましいです。
そのため、「ポトラッチ」になっていくのでしょう。
できれば、なにかを受けとるのは遠慮したい。なにかを返したくなるから。だから、贈り物をするのは自粛しています。ポトラッチになりかけているときは、関係を断ち切る覚悟で、お返しを止めることも必要です。
中編だからこそ、冗長な表現がそぎ落とされ、内容がスッと受け取りやすくなっています。
100分の読書体験に対して、990円という値段は、すこし安いような気もします。
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U-NEXT:2024.4.26
単行本:144ページ
!!『三千円の使いかた』著者原田ひ香さん驚嘆!!
見返りがなくてモヤる
相田愛奈は、正しいことがなにより強いと信じている。無職の彼女の銀行口座には、幸運に得た約2億円があるにもかかわらず、節制した生活を続けている。その一方で、福祉団体等には多額の寄付をしていた。
そんな愛奈のもとに、無職かつ浪費家の従姉妹・忍が転がり込んできた。さらに、Amazonの<ほしい物リスト>で約3万円分の品を贈った相手から、お礼らしいお礼がないことに愛奈は気づく。
なぜ? どうして? 数々の出来事が正しさセンサーに引っ掛かり、悶々とする愛奈の日々が始まった。
贈与と返礼、お金と正しさを描く著者最高到達点
奥田亜希子(おくだ あきこ)
1983年愛知県生まれ。愛知大学文学部哲学科卒業。2013年『左目に映る星』で第37回すばる文学賞を受賞し、デビュー。ほかの著書に『ファミリー・レス』『五つ星をつけてよ』『青春のジョーカー』『愛の色いろ』『白野真澄はしょうがない』『クレイジー・フォー・ラビット』『求めよ、さらば』などがある。