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読書ノート『グレイスは死んだのか』
第55回新潮新人賞を「シャーマンと爆弾男」で受賞した著者「赤松りかこ」さんは、大江健三郎さんを敬愛する獣医師です。
本書にはシャーマンと爆弾男も併録されています。
赤松さんの文章を読んでいると、腹の中、さらに奥の奥からエネルギーが沸き立ちます。帯に「圧倒的筆力」とありましたが納得の筆力、とてつもない力強さは刺激的で虜になります。
ネタバレになるから軽く……
とても読みづらくて頭がモヤモヤするところがある。けれどそれは意図して書かれた文章になっていて、すぐに読み返したくなります。
ーーグレイスは死んだのか
調教師の男とその犬グレイスが深山で遭難した。自然の中で生き抜くのに人の脆弱さは尊厳を保つことができない。人と犬の主従関係は徐々に逆転していき、ついに屈服してしまう。
山中での凄絶なサバイバル。生きることは食べること、命を刈りとる能力が求められる。
遭難に至る直前に一頭の鹿を銃でしとめた。しかし、男は食べることもせず埋葬するでもなく、そのまま放置する。命を弄ぶ行為は山の怒りをかい、土砂崩れによって唯一の道を塞がれてしまう。
人と動物の主従関係が何をもって成り立っているのか、そこには信頼関係なんてものはなく、人のもつ言葉が力を失ったときに動物は自分を守るための行動をとる。牙を頸もとに突き立てられ、ぷつぷつと恐怖が皮膚を突き破り血に混じる。
死を纏う恐怖に屈服した人は動物にとって従者であり、群れの一員となる。立場の逆転。日常をただ生きている分にはあまり考えることのない、異なる「他者と生きる」ことの本質を考えさせられる。
これは人間関係にもおいても変わらない。上下のある関係というものは、パワーバランスが崩れれば簡単に逆転してしまう。だから対等な関係を築いていくようにしたい。
ーーシャーマンと爆弾男
日本の東京世田谷を舞台に、シャーマンとして母親・族長に育てられた女性アリチャイを主人公にした小説です。自己に疑問を持ったアリチャイが、東京を流れる大きな川の河岸で爆弾男ことヨハネ四郎(柘植蓮四郎)に出会い、物語が始まります。
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新潮社:2024.7.31
単行本:160ページ