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読書ノート『水たまりで息をする』
芥川賞作家の高瀬隼子さん、大好きな作家さんのひとりになります。
ーーこんな話
バスタオルを使っていない……夫が風呂に入っていないことにづいた衣津実は、なんとか風呂に入れようとするけれど入ってくれない。水が臭くて触れるとちょっと痛いと主張する夫は、風呂に入らないままでも会社へはいく。どんどん濃くなる臭いと溜まっていく垢に、衣津実は心配になるけれど夫はそれほど気にした様子ではない。
ある日、雨に濡れて帰ってきた夫は嬉しそうにはしゃいでいて、この手があったか、と胸をうつ。
水といっても、カルキ臭い水道水がダメなだけで自然の水は問題ない様子に問題が解決したように思えたけれど……そんな訳もなく、体臭が職場で問題になる。
会社を辞めた夫と一緒に地元へ帰ることにした衣津実は、川で水浴びをするのが日課となった夫と、のんびり暮らしていた。
豪雨の日に河川増水の警報が流れ、夫は姿を消す。
ーー夫婦の問題
飲み会の席で後輩に水をかけられてから、水に嫌悪感をもつようになる夫には同情する。本音を表に出さないから、そんな深刻そうには見えないのだけれど、気にしていないわけはない。しっかり悩んでいるし、濃くなる体臭も気にしている。
夫婦の距離感がよくて、無理強いをしたりヒステリックに怒ったりしない衣津実に救われていたと思う。かといって無関心でいるわけじゃない。
義母からは「おままごと」と言われた結婚生活は、こどものいないふたりにとっては最善なのに、そのひと言が衣津実の心に刺さって抜けない。夫婦の問題だと言う義母は、容赦なく干渉してくる。
ーーみんな自分にとっての普通を生きている
どうやら普通から逸脱する人間が好きなようである。周囲の空気に溶け込むように適応していても、なにかの拍子に異物とみなされて排除されてしまう。多様性という言葉をいくら口にしても、人間の本質が不寛容であることには変わらない。他者性を拒否するには便利な言葉だ。
水が無理で風呂に入れないから体臭はしょうがありません。で通らないほど、現代人は潔癖症になってしまった。自分の普通を他人に押しつけて、平気で攻撃する。その人の問題を解決するのはその人の課題であって、他人ができることはあまりにも少ない。
川の水が冷たいとはしゃぐ夫と、その様子を木陰から見守る衣津実の時間が愛おしく、ずっと続けばいいのになと願う気持ちは、豪雨による増水によって流されてしまう。
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集英社:2024.5.21
文庫本:168ページ