〈読書記録〉欲望のウロボロス
むせかえるほど濃厚な匂いが、ただよう。
場所、モノ、ひと。匂いは記憶に縛られて、傷として刻まれる。手放したい感情を刺激する。
◇ 本の中身
画家の清秀は、父の秘書である間宮から呼び出される。電話では話せない内容であることから、絶縁していた天才料理人の父・康則のマンションへと赴く。
そこには父の遺体と、裸の少女の姿があった。少女の名前は蓮子。8歳のときから11年間マンションに監禁されていた。
この事件は世間を騒がせ、日常は壊された。
被害にあった19歳の蓮子の精神は、誘拐された8歳のままで止まっていた。さらに、憎むべき相手に依存しており、迎えにきた家族を拒否する。唯一こころをひらくのは、息子である清秀のみ。加害者遺族として蓮子のために尽くすなか、欲求が抑えられなくなる。
「あの女を描きたい」
あることをキッカケに蓮子を誘拐する。
狂おしいほどの愛が、絵画をとおして、少女のこころを癒す。
◇ 主観
たまらなくラストが好きです。
温かいため息が漏れます。俗にいうハッピーエンドではないけれど、胸がギュッとなりました。
濃厚で息苦しくなるのに、読むことを拒否できない。読んでいるのではなく、読まされている。そんな感覚になります。
愛と性はイコールではないけれど、近い。どうしても抗えないから欲望なのであって。快楽イコール愛ではない。一方的な欲望を愛と呼べるのなら、そんな簡単なものはありません。
そう思いつつも、狂おしいほど他者を欲する経験というのは、捨てがたい。
講談社:2024.4.12
文庫本:330ページ