ハードコアチョコレートについて語る
人のファッションとは、その人を物語る。
僕も中学生の頃にHIP HOPにハマった時は、立川のHIP HOPブランドショップでPHAT FARMやSEAN JOHN、ENYCEやVOKALといった、いわゆる「B系ブランド」に身を包んでいた。
背丈はそこまで高くないので本当に似合わなかったが。
その後、Hi-STANDARDにハマり、彼らのレーベルである「PIZZA OF DEATH」が展開するシャツやパーカーなどを買い漁り、毎日の様に背中に「PIZZA OF DEATH」を背負って過ごしていた。当時務めていた学童も制服がなく私服出勤だったので、毎日背中は同じロゴ、表だけ違うプリントのシャツを着ていた。
どれもこれも、「何かしらに影響を受けて取り入れたファッション」だ。
しかし僕はここ数年、とあるブランドの衣服しか着ないようになっている。
そのブランドの名は、ハードコアチョコレート。
自らを「Tシャツ界の悪童」と名乗り、他のブランドでは決して実現しないようなコラボ商品を次々と産み出し、マニアの涎を垂れっぱなしにさせている。
僕とハードコアチョコレートの出会いは、本当に偶然だった。
僕は元々、小学校五年生に地元で興行を見た時からプロレス、特に全日本プロレスが好きだった。
そのプロレス熱は5年程で一度落ち着くのだが、youtubeやTwitterといったSNS・動画サイトで再度プロレスに触れることが多くなった。
僕が特に好きな時代は、80年代前半〜90年代後半に掛けての、外国人大暴れ時代〜四天王時代。
ある日、「スタン・ハンセンのシャツって無いのかな」と思い、Google検索をした時、多種多様なプロレスシャツと共に、印象的なサイトの名前が目に付いた。
「プロレス・カンフー・ホラー映画!」
「コアな題材をパンキッシュなデザインで消化する、それがハードコアチョコレート!」
この見出しの中でプロレス以外にはてんで疎い僕であったが、興味本位でそのページを訪れてみた。
すると、なんと僕の琴線を触れてくれるデザインが溢れていることか…
随所に刻まれた「HARDCC」のロゴ。
左腕のタグには「精神錯乱」という穏やかではない熟語が踊る。
その作品を知らなければ目を逸らしてしまうようなホラー映画のワンシーンでさえ惜しみなく使用し、そのフォントやワンフレーズにも病的なこだわりが感じられる。
僕は、すぐに心を奪われてしまった。
そのハードコアチョコレートの店舗が東中野にあると聞き、初めて訪れたのが2019年の4月。
その店内の圧倒的アイテム数と店内に張り巡らされるポスターの猟奇さとは裏腹に、店員さんは優しい声で「いらっしゃいませー」と出迎えてくれたのを覚えている。
今までインターネット上でしか見れなかったシャツが、今目の前にある。
しかも実際に触ることができる。
大袈裟ではなく、憧れの芸能人に出会えたような気分になった。
初めての来店の時は、ブルーザー・ブロディのシャツとHARDCCのロゴTシャツ、そしてグレート・カブキのパーカを購入した。もちろん1年以上経過した現在でも現役で着用している。
気になってしまうものはとことんまで調べてしまうのが僕の癖。
更にハードコアチョコレートのを調べると、デザイナーでもあり社長でもあるMUNE氏が、同じく東中野でバーを経営していることを知る。
「BARバレンタイン」と店名の響きは可愛らしいものの、バーの紹介ページには釘バットや鉄の爪を構えて舌を出すMUNEさんの写真があった。
行きたくない訳が無い。
それから数ヶ月、友人を誘ってBARバレンタインを訪問しようと画策するも、どうにも予定が合わずただ時間だけが過ぎていく。
2019年10月に一度友人と予定が合った為、日付と集合場所まで決めていたのだが、当日になって関東に台風直撃。
あえなく中止という憂き目にもあったものの、11月にリベンジとしてBARバレンタインに行くことができた。
20時オープンと聞いていた為、1時間近く前乗りで集合し、近くの居酒屋で少し酒を引っ掛けてから向かう。
「雑居ビル of 雑居ビル」といった風体のビルの入り口に、BARバレンタインのおどろおどろしい看板が立てられていた。
「時は来た…。それだけだ」
全日派でありながら橋本真也選手の名言が飛び出してしまうほどの興奮。
ゆっくりと階段を上がり、重いドアを開くと、そこには写真とは全く違う、五感を刺激する空間が存在していた。
四方八方に張り巡らされた映画やプロレスのポスター。
更にはプロレスや特撮物のフィギュア。
カウンター内には数え切れないほどのDVDソフトの数。
そのカウンター所狭しと並べられているアルコールのボトルの中にウルトラマンの怪獣・ジャミラがひっそりと佇む。
オープン直後から入店した為、僕らがその日最初の客だったようで、女性の店員さんが笑顔で僕らを出迎えてくれた。
僕はというと…もう「うわぁー!」しか声が出なかった。
もう、何から書き記せばいいか分からない。
僕らが座っていたカウンターの後ろにあるレックス・ルガーのフィギュアに大興奮している僕を見て、友人二人はきっとやや引いていたのかも知れない。
(その友人も、アトランティスに目元を貫かれたロビンマスクのマスクを見て大興奮していたので、引き分けといえば引き分け)
フードメニューを見ても「人殺し肉」と刺々しい字体で書いてあるなど、その特異さを挙げれば枚挙に遑がない。
僕は感嘆の声しか上げられない反面、心の中では「これだよ!こういうBARを求めていたんだよ!」ともう一人の僕が叫んでいた。
ビールを頼むと瓶がそのまま出てくるという「四畳半感(勝手に命名)」も本当に良かった。
その昔、安アパートに住んでいた友人の家にお邪魔した時、瓶ビールはあるのにコップがないという状況に陥り、二人で瓶ビールをラッパ飲みしたことがあるが、まさにそれと同じような状況。
嬉しさと懐かしさで時間がマッハで過ぎ去っていくような錯覚に陥っていた。
その時の店員さんもプロレス好きらしく、男色ディーノが特にお気に入り、と話してくれた。
冒頭にも書いた通り、僕は2000年以降のプロレスをあまり追えておらず、今ではこんな選手がいる、この選手のこの技が凄い、などと新たな情報をてんこ盛りに教えてくれた。
入店してから約1時間ほど経ち、MUNEさんが出勤。しかしなぜか僕はまともにMUNEさんの目が見れないという謎の乙女心を発揮。
僕は憧れとリスペクトが強過ぎる人と対面してしまった時、しばしばこうなってしまう。例に漏れずMUNEさんにもその動揺がフルに発揮されてしまった。
その後、気さくに話しかけてくれるMUNEさんになんとか緊張を解いてもらい、なかなか聞けなかった事までいろいろ話させていただいた。
お酒も入っていたので失礼な質問もあったかもしれないが、ひとつひとつに丁寧に、ユーモアを交えながら答えてくださり、本当にありがたかった。
その後、僕の右隣にたまたま来店していた中邑真輔のそっくりさんとして活動している中村珍輔さんともお話させていただいた。
なんと僕と同じくHi-STANDARDが大好きなようで、「PIZZA OF DEATH」をもじった「HIZZA OF DEATH」と書かれているステッカーを頂いた。
それからBARバレンタイン秘蔵の釘バットや三節棍も実際に触らせていただき、一緒に行った友人と大騒ぎをした。本当に刺激的な夜だった。
あれから約1年が経ち、仕事や副業、更に新型"Fuckin"コロナウイルスのせいでなかなかBARバレンタインに行くことができなくなってしまったが、今でも、常に「もう一度行きたい」という思いが僕の中で蠢き続けている。
洋服という概念、そしてBARという概念をひっくり返してくれたハードコアチョコレート。
僕はこれからもずっと、このブランドを愛すだろう。
そしてまた、新鮮な気持ちでBARバレンタインに遊びに行きたい。
日本のコロナ事情が落ち着いたら、暇さえ見つけて行けるようになったら最高だ。
いつか、MUNEさんや店員さんに「お、また来たのか!」と言われるようになってみたい。
・ハードコアチョコレート
https://core-choco.shop-pro.jp/
・BARバレンタイン
https://www.facebook.com/higashinakano.bar.valentine