デンマーク料理の話
一般的に、北欧はデザインや町並みは美しいが、その一方で食べ物に関してはみんな無関心で正直ろくなものを食べていないような印象がある。肉も魚もこってりバターソースで元の味はまったくわからないし、つけあわせはポテトばかり。
ところが、ことデンマークに関してはちょっと違う。古くからの農業・酪農国であり、半島なので海に囲まれている。さらにグリーンランドという領土があるので、そこから滋味たっぷりの海老や蟹やニシンが獲れる。さらに海運国なので海外からの食品も昔から流通しておりデンマーク料理のバラエティーは幅広く、味付けも豊かである。
首都コペンハーゲンはイタリアの主要都市に劣らぬ食の都。今や名の知れた NOMA (The World’s 50 Best Restaurants で何回も1位を獲得) を始めとしてミシュランの星を獲得している店も軒並みある。私もスウェーデン南部に出張に行っていた頃は、わざわざ、こちらでいう明石海峡大橋に匹敵するオアスン海峡大橋をデンマーク側に渡って行ってまでコペンハーゲンの食べ歩きを楽しんだものである。ただし・・・北欧なので税金がバカ高くアルコールは控えめにしなければならないのが唯一の難点ではあった。
私がデンマーク料理に初めて出会ったのは時を遡ること昭和60年ごろ、神戸の元町本通の一本山側にあった「ニューハウン」という店である。ここのご主人は船のコックをされていたらしいが神戸が気に入り陸に上がってデンマーク料理店を出したのである。ログキャビン風の2階の店には、キャンドルがたくさん灯り、薄明かりが好きな北欧人テーストの溢れる店だった。
そこでグラブラックスという、生ではない、でもマリネでもない、乾燥ディルがたっぷり付着したサーモンを薄くきり、それを蜂蜜が入ったような甘いマスタードとディルが入ったソースをつけて食べるという不思議な料理に出会った。今では IKEA のレストランでも似たようなのが食べられるが当時では物珍しかった。
今の時代、日本でも簡単に生のディルが手に入るので、いわゆる本来のグラブラックスが自宅でも簡単に作れるようになった。でも乾燥ディルで工夫して作った当時のニューハウンのグラブラックスが強烈に懐かしく思えるときがある。と同時に、そういう店がそこここに点在していた、おしゃれで大人な当時の元町の雰囲気が泣けるほどに恋しい。
ニューハウンの主人は震災前にすでに店を畳み故郷に帰ったそうで、山手の回教寺院前に唯一残ったスカンジナビア料理店「ゴックススタッド」も震災後には閉店した。
その後どうしてもデンマーク料理を食べたくなったときは、今は須磨駅前でサンドイッチ屋さんをしているビャーネがかつて営んでいた津山 (岡山県) まで中国道を飛ばして行くしかなかった。その店コペンハーゲンは B’z の稲葉浩志が帰郷の際には必ず訪れるというほどの有名店だったが、そこさえもう20年以上も前に閉店してしまった。ただ、稲葉浩志の話を聞きたいファンの人は、今でも須磨駅前のコペンハーゲンに行けば、ビャーネが喜んで話を聞かせてくれる、と思います。
本格的なデンマーク料理店がもう西日本にはまったくなくなってしまったのはほんとに寂しい。その一方で、数年前には NOMA が東京に INUA という姉妹店を出している。ただし INUA は自家製の発酵調味料を使ったイノベーティブな料理を出すお店らしいのでデンマークとは直接の関係はないかもしれない。
いずれにしても日本人がデンマーク料理のすばらしさに啓蒙され、その風がいつしか東京から関西へと吹いてきてくれることを期待してやまない。
*追記 : INUA は 2021年3月に閉店したようです。
巣ごもりのためのレシピー
グラブラックス: (アトランティックサーモンの一夜マリネ)
マリネとは書いたものの酢やレモンは使わないので一晩キュアリング (熟成) させたサーモンと思ってもらえばいいと思います。グラブラックスという北欧のどこでも食べられる一皿。ライ麦パンでもあれば最高です。
材料:
▶刺身用アトランティックサーモンの短冊 縦横はスマホ大のサイズで、しっかり厚みのあるもの
▶塩 大さじ 1
▶砂糖 大さじ 1
▶生のディル 3枝
(ソース材料)
▷マスタード (ディジョン系) 大さじ 2
▷はちみつ 大さじ 1
▷酢 小さじ 1~2
▷ディル 細かく刻んだもの 少量
作り方:
1. 容器に塩と砂糖を入れてよく混ぜ合わせる。
2. 刺身用のアトランティックサーモンの表面をキッチンペーパーで拭く。
3. サーモンの表面全体に 1. の塩と砂糖を混ぜたものを塗り、その上にディルを適当な大きさにちぎって置く。ディルの茎の部分はスプーンの背中で潰しておくとよく香る。
4. 片面ができたらキッチンペーパーの上にひっくり返してもう一方の面にも塩・砂糖を塗りディルを敷き詰める。
5. そのままキッチンペーパーでしっかり包み、それをさらに新しいキッチンペーパーでしっかり包む。さらにそれをラップで包む。
6. これをそのまま冷蔵庫に一晩寝かせる。12時間以上寝かせると塩辛くなりすぎるの注意。
7. 食べたい時間の1時間ほど前に冷凍庫に移して全体を凍らせる。(凍らせるとルイベのようになって薄く切りやすいため)
8. 冷凍庫から取り出してラップとキッチンペーパーをはがし、サーモンに付いている塩・砂糖・ディルを水道の水で洗い流す。
9. サーモンの水をキッチンペーパーなどで拭いて薄切りにして供する。
10. そのまま食べても十分においしいが、北欧風にするには白い三角 (▷) の材料を混ぜ合わせてソースを作る。