「凡災④」
第5回 ことばと新人賞に応募した落選作「凡災」を一章ずつ掲載しています(4/15)
婚姻の祝かえしはなべしやぶよりもふりーずどらいがよいというので、三こーるでつながれた電話が祖父のもとにとどくはずの郵送をとりやめさせた。注文のまえに偶者どうしで相談すればよかつたものの、相談を思いついたのはせねばならぬ注文を終えたあとだ。
ふりーずどらいのほうがよいと図られた祖父の暮らしは許可証を返してくるまを失したあとだ。娘のくらす借家塔の車駐列でぐるり石にのりあげるおぼつかなさは祖父の運転をすでにこわいものにしていたから許可証を返す手筈は血族たちをよろこばせた。祖父の自在を奪つたのは手足の不能でなく脳の血づまりに起因する司令の不能だ。医術が命をひとつとりとめたあと、脳でいそぐほどの速さで足がめぐらずぎやつぷにいらついてつかれはて歩くのが難儀にかわる。しばらくもせず祖父が病のない長兄のくるまでこーひーをのみに出かけ続けた新たな習いが血族たちの不安をよみがえらせる。以来、家にふりーずどらいの空である白いすちろーるを娘がみつけ、くるまのない祖父がいつか新聞の番号にかけてとりよせたあとこんびにでの払いに失して督促されてきたらしいことがあきらかにもなる一幕をいつか母が報せた。それで買いに行かずとも届く食べものを祖父がほしいと伝えきいておぼえていたのは子ではなく母の子の偶者のほうで祝返しの件まで忘れていた。
また通知が灯る。めざすために名古屋から流れるおおきな川のちいさな枝おれにかかる橋をわたりくねる舗路にそいすべりだいやぶらんこで障害児らがあそぶ公園をこえ、ばす停まで健体ならものの五ふんの路を三〇ふんかけて達しようとするもできず胸おさえて倒れ、ついにはそのばすでどこに行こうかということも報せぬままあきらめたてん末が距離の外れたおお声で説かれたあとまあこんなんなっちまったらおしまいやな、ばはっばはっと笑う声を録る音が中途れる。
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