ショートショートnote杯┃君に贈る火星の
〈君に贈る火星の〉
そう始まる彼からの手紙。私は同封されていたペンダントを着けてこの場所を出た。
帰りのタクシーを拾い、乗り込む。
慣れない黒い服に似合わない缶ビール。
行き先を告げて私は残りのビールを流し込んだ。
「お客さん、大丈夫かい?」
今は喋り掛けないで欲しい。
別に吐く程には酔ってはいないのだから。
いや、格好と場所のせいでそんな事を言うのだろう。
ふいにラジオからニュースが聞こえた。
〈世界宇宙開発は今回の事故を受けて、火星移住計画の断念を発表しました〉
「残念だよ。ここが地元の人も計画に参加してたらしいからね」
「ええ。知ってます」
私は震える声でようやく言葉を吐き出す。ペンダントの先に付けられた指輪が光った。
手紙はこう始まっていた。
〈君に贈る火星の調査中の俺からのプレゼント。無事に戻ったら結婚式を挙げよう〉と。