掌編小説〈遥か遠い家族へ〉
2XXX年。
オレはいつもの作業に取り掛かる。
相変わらずゴミの多いエリア。
小さいゴミも見逃さないように細心の注意をはらう。
1人での作業もすっかり馴れてはいたが、やはり寂しいもので、家族の写真はすでにボロボロになっていた。
「この生活ももう少しの辛抱だ。シンタも小学校に上がるんだよな。帰るのが楽しみだ」
つい、本音が漏れてしまう。
「おい、コウスケ! よそ事を考えるな! 作業に集中しろ」
無線を通じて先輩からのお叱りに、オレは慌てて作業を再開した。
指示を受けながら1つ1つゴミを片付けていく。ゴミ袋、ネジ、何かの残骸まである。
最近は食べた後のポテチの袋とか、空の弁当容器に箸とか、そんな物が増えてきた。
規制緩和によって旅行しやすくなったのが大きな理由なのだろう。
だいぶ旅行代金も安くなったし。
だからと言って、こんな風に気軽にゴミを捨てられたらたまったものではない。
回収処分するこちらの身にもなってみろ。
ゴミを掴み、特注のダストボックスへ入れる。社名とロゴがデカデカと印刷されている箱。使われてる素材も特殊な物で、値段は知らないけれどもそれなりにお高いらしい。
結局、箱ごと全て燃やすんだから、安物でも良いとは思うのだが。
「そろそろ時間だ。戻れ」
黙々と作業を続けているうちに予定時刻に近くなったらしい。
先輩からの無線に短く返事をしてオレは船に戻った。
「ご苦労さん。もうすぐこの景色ともおさらばなんだから、しっかり目に焼き付けておけよ」
先輩が豪快に笑った。
船の中はオレと先輩の2人。
流れる景色に混じって自分の顔が窓に映る。
こうして宇宙にいられるのもあと僅か。
ギリギリになってからようやく無性にこの景色を噛み締めたくなるのも、人間らしい感情なのかもしれない。
「嫁も子供もいるのに、こんな仕事選びやがってよ」
「お金ですよ。それに、この仕事ならちょっとは自慢できるかなって。お父ちゃんは宇宙に行ったんだぞって」
顔を合わせる事もないまま淡々と会話が進む。
先輩の顔なんて見なくても、心情は分かってるつもりだ。それに声だって……。
「帰ったらどうするんだ」
「しばらくはゆっくりしますよ。と言ってもリハビリだけはやらなきゃですけど」
「まあ、そうだな」
「先輩は」
「俺は家族なんていねえからな。帰りたいとかは思わねえよ。一旦、地上に戻ってもまた宇宙へ来るさ」
そして目的地までのしばしの沈黙。
到着すると早速ダストボックスを船から射出する。
「方向ヨシ、推進装置状態OK、このまま大気圏に向けて落とす」
「状態確認、ボックスは順調に落下を始めました」
近年、宇宙旅行が身近になった事で、宇宙ゴミが深刻な問題になっている。
観光客が宇宙にゴミを捨てるのだ。
それらは人工衛星を傷付けた例もある。
社会に多大な影響が出たのは言うまでもない。
オレは地上に落下しながら燃え尽きていくダストボックスを眺めながら思う。
〈それでも地球は青かった、か〉
オレは写真を撮った。
家族に見せよう。
これがお前たちの住んでる星だと。
いつか、一緒に見よう、と。
終わり