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ちょっと、虫のいい話
欧州連合加盟27カ国で「ミールワーム」という革新的な食品が認可されたというニュースを読んだ。それは、ゴミムシダマシという小難しい学術名がついた、いわゆる幼虫である。食糧難がやってくる未来に昆虫食は救世主という声も聞かれるし、実際、アマゾンでもパッケージに入った食用の虫が堂々と販売されている。日本には昆虫食の自動販売機が設置されているところがあるというし、昆虫食専門レストランもあるというから、本当に蓼(たで)食う虫も好き好きだと思う。
ただ、このまま行けば人口は増加する一方で、食糧確保は大きな問題になることは間違いない。動物タンパク質に変わる未来のタンパク源の鍵を昆虫が握っているとされていて、決してムシできない存在になっているのだ。確かに、日本でも昔からイナゴのつくだ煮や蜂の子を食べる習慣はあった。栄養価で言えば、蚕のサナギ3匹が鶏の卵1個分に相当するというから、かなりのものである。
昆虫食の利点はまだ他にもある。飼育、生産に場所を取らないこと、餌が家畜ほど要らない、鳥インフルなどの伝染病のリスクが低い、メタンガスなどの放出量が非常に少ないこと、挙げればキリがなく、良いことづくしに見えるほどだ。
時代は昆虫食なのか!? 国連食糧農業機構は昆虫食を奨励していて、スイスでは昆虫ハンバーガー、昆虫ミートボールが数年前から販売されている。しかし、原形が残っていなかったとしてもやはり食指は伸びない。コオロギパウダーを使ったパンというのもあるらしいので、パンだったら、なんとか抵抗なく食べられるかもしれない。
それにしても筆者が小学生の頃なんて、昆虫といえばセミやチョウチョウをタモで捕まえ採集するくらいのものだったが、まさかそれを食べる時代が到来するとは夢にも思わなかった。そういえば「パピヨン」(1973年)という米国の映画で主人公のスティーブ・マックイーンが独房で空腹死に直面した時、飢えをしのぐために、床をはい回る虫を手づかみで食べる衝撃的なシーンを思い出したが、彼が生き延びられたのは、もしかしたら、高タンパクの虫のおかげだったのだろうか。
羅府新報(Vol.33,740/2021年5月11日号)『磁針』にて掲載