「対話があたりまえになる社会へ」人生をかけて“対話事業”をはじめた理由
「この対話事業は、人生をかけておこなっています」
対話事業「your dialogue」(ユア・ダイアログ)をスタートさせた、はやしまさひろさん。ふだん穏やかな口調の彼が、熱を帯びて力強く語った“対話事業”とはどのようなものなのでしょうか。
事業開始につながるバックボーンや痛みを伴うような原体験、そして「対話があたりまえになる社会」をこころから願う、その想いについてじっくり話を聞きました。(編集・文:はとだ)
はやしまさひろ プロフィール
(株)LITALICOにて発達に困りを持つお子さんとその保護者さんの家族支援をする傍ら、“在りたい未来を共に叶える”対話の事業を個人でおこなっている。「人の深い意識に触れ、人生が変容していくストーリーに関わる」ことを大切にし、ライター業やコミュニティ支援に携わるなどパラレルな生き方を表現している。
僕自身が「自分の話がするのが苦手な人」
――2020年からスタートした対話事業「your dialogue」の概要を教えてください。
はやし:セッションを受けてくださる方が叶えたいもの、進みたい道に向けて、安心と納得感をもって進むことができるよう、対話を通じて「伴走」させていただいている事業です。その方の内面、こころの声、表現したいけど抑えつけている感情、言葉にできない想い……そういったものを受容し、その方が前に進めるよう、対話を通して寄り添っている事業だと捉えています。
――事業のコンセプトとして、特にどんなことを大切にされていますか?
はやし:「実は自分の話をするのが苦手な人」に安心感を持ってもらうことを大切にしています。実は自分の話をするのが苦手な人って、まわりからはそう見えないけど繊細だったり、自分の気持ちを後回しにしたり、気をつかって我慢したり、なかなか相談できなかったり……という場合があると思うんです。繊細だからこそ感受性が豊かで素敵な方が多いようにも感じています。そんな方々が、自分の可能性を信じて自分の幸せを選択できるよう、対話で伴走できればと思っています。
――話をするのが苦手ではないけど「対話」を必要とする方もいるかなと純粋に思いまして……。ターゲットを「実は自分の話をするのが苦手な人」とした理由が気になりました。
はやし:聞いていただきありがとうございます。人がこころの奥底から変容し、自分らしい道を歩んでいくことに興味関心があります。加えて「自分の話がするのが苦手な人」への思い入れというか……僕自身がそうで、当事者意識が強いからなんです。さらに僕のまわりにそういう想いを抱えた人が多くて。なので、自分の原体験とまわりの人たちの影響が色濃くあると思います。
誰にも相談できなかった「ないもの扱い」された原体験
――「自分の話をするのが苦手」な、はやしさんのバックボーンや、対話事業につながる原体験について紐解いていければと思います。まずは、はやしさんの生い立ちから聞かせてください。
はやし:僕は転勤族の家庭で育ちまして、4~12歳のときにイギリスとドイツに住んでいました。幼少期~思春期にかかる年齢でしたし、当時の自分は海外で過ごすことを前向きに捉えられませんでした。言語も文化も違う環境下に置かれ、内向的な性格だったことも災いして、なかなか抱えていた悩みを家族や友達に相談できなかったんです。
――環境的にも、性格的にも相談しづらかったんですね。
はやし:はい。そんな環境ですし、文化も言語も違いますから、適応することでいっぱいいっぱい。自分の想いを表現することより「順応しなくちゃ」とまわりの顔色をうかがう……という状況でした。加えて、親にも悩みや不安を話せなかったんです。コミュニティや学校を転々として、唯一変わらない場所は家庭しかなかったのに、そこでさえ「心配かけたくない」「迷惑かけたくない」と思い込んでいました。
――自分のことを話すのが苦手なのは、そういったバックボーンからだったんですね。その後、具体的にどんな原体験があったのでしょうか?
はやし:対話事業につながる大きな原体験が3つあるのですが、ひとつめが中学校2年生のとき受けた「いじめ」です。中学2年後半~中学3年にあがるまで、クラス全員にシカトされるといういじめを受けました。最初は5~6人くらいのグループ内で「あいつ、無視しようぜ」というちょっかいから始まり、それがクラス30~40名にまで広がって。クラスのなかで孤立する経験をしました。僕が話しかけても誰も返事をしてくれないし、誰からも声をかけてもらえない。自分が「ないもの」として扱われ、自分のすべてが否定されたようでした。幼少期から安心できる居場所がなく、勉強やスポーツを必死にがんばってなんとか自己肯定感を保ってきたのに。僕という人格がもろく崩れ去ったような感覚でした。
――その状況を、誰かに相談することはできました……?
はやし:できませんでした。親にも先生にも誰にも言えなかった。それでも学校には通っていました。そのとき、自分の存在を受容してもらえる、安心できる場所があったら、誰かに相談して話を聴いてもらえたら……もしかしたら救われていたかもしれないです。そういった原体験が対話事業につながる、最初のきっかけになったと思います。
はじめて自分の内面を打ち明けることができた
――そのあと、「自分の存在を受容してもらえる」「誰かに話を聞いてもらえる」と感じられた経験はあったのでしょうか?
はやし:大学2年生のときに「自分の弱みや痛みを話していいんだ。ありのままの自分を受け入れてもらえるんだ」と思えた大切な経験があります。それがふたつめの大きな原体験です。学生時代に、ふとキャリアについて考えたくなって、あるNPOが開催した1泊2日の対話型ワークショップに参加しました。そのときの自分は「世界に進出して総合商社や外資系コンサルで働きたい!」って意気込んでいた頃で。
――意外ですねぇ。
はやし:ですよね(笑)。海外に住んでいた経験を活かしてグローバルに活躍し、世界に価値を残すビジネスマンになりたい! とざっくり思っていたんです。そういうビジョンを描いて対話のワークショップに参加しました。そこで、参加した方からとても印象的な言葉をもらったんです。「はやしがしゃべっている言葉は辞書みたい」って。
――辞書? どういう意味でしょう。
はやし:僕も最初は何を言われているのかさっぱりわからなかったんです。「海外生活を経験してきたし、将来はグローバルに活躍するんだ!」と、自分のビジョンを自分の言葉で話しているつもりだったんですけど、そこには想いやあたたかみを帯びていなかったんですよね。それで「辞書みたい」だと。……とてもショックでした。でもそう言われて考えてみると、自分がこころから願っている未来ではなかった。こころのどこかで「海外経験を意味のあるものにしなきゃ」って思い込んでいたんです。
――対話によって、本当の想いに気づいたんですね。
はやし:そうですね。それでなぜ辞書みたいな言葉になったのか、参加者の方がはやしのバックグラウンドを聴いてくれたんです。そこではじめて幼少期のこと、中学のいじめの話をすることができて。過去のことはコンプレックスで人には言えなかったのに、話してみたら不思議と「自分の話を聴いてもらえた」と安心感を持てたんです。それまでずっと肩ひじを張ってファイティングポーズをしていた自分が、ふっとこころが軽くなって。それはこころが解き放たれたような感覚で、はじめて自分のことを少し許せた瞬間でもありました。
自分の命を尽くし、大切な人に愛を注いだ
――対話の力を実感したよき経験でしたね。対話によって、ありのままの自分を受け入れてもらった経験をしたあと、対話で相手を "受け入れた"、印象的な経験も聞かせてください。
はやし:3つめの大きな原体験になるのですが、大学3年生のときの恋愛です。当時、僕はオーストラリアに留学していて、日本にいる恋人と遠距離でお付き合いをしていました。その元彼女は愛を大事にするとても素敵な方だったんですが、生きづらさを強く感じていて。「生きる意味がわからない」「未来に絶望しかない」という言葉を口にすることもありました。遠距離なので彼女のそばで関わることはできなかったんですが、こまめにLINEで連絡を取り、電話で夜通し相談に乗るなど、自分なりに愛を注ぎ続けました。僕は当時「この人と一緒に幸せになりたい」と願っていたからです。
――丁寧に向き合い続けたんですね。
はやし:紆余曲折あり、最終的にはお別れしたのですが、「もう生きたくない」「未来に絶望しかない」と言っていた元彼女が「生きるのも悪くないなぁ」「幸せに生きれるようになりたい」と思えるようになったんですね。大げさな表現をすると、自分の命を尽くして大切な人と向き合って愛を注ぎ、一緒に歩もうと手を取り合うことができたんです。そして、「対話によって人を勇気づけたり、救ったりすることができるんだ」「こういう生き方をするのも悪くないんじゃないか」と思う大事なきっかけになったんです。
――そのような原体験を経て、「対話」の事業化はどのように始まったのでしょうか?
はやし:もともと僕はメンタルヘルスや人の内面に興味があって、こころの在り方と対話についてSNSで発信し続けていたんですね。そうしたら、ありがたいことに知り合いや友達から「話を聴いてくれない?」というご相談をいただくようになりまして。いつか形にしたいと思っていましたし、こうやってご相談をいただいたタイミングが始めどきだと思い、2020年の1月から事業化しました。
想いを受けとめ、変容をうながしていく対話の伴走
――現在、対話事業のセッションではどんなテーマについてお話されていますか?
はやし:ありがたいことにさまざまテーマで対話セッションをさせていただいています。恋愛、パートナーシップ、人間関係、他者とのコミュニケーション、ビジネス的なテーマなど多岐にわたります。ご自身の素敵な想い、叶えたいものがあっても、葛藤があったり社会に違和感があったり、日常に疲弊して諦めようとしてしまったり……。叶えたいことに向けて一歩が踏みだせない、継続できないという想いを持つ方が多いですね。
――そういった方々と、どのような形で対話をおこなっているのでしょう。
はやし:主にLINE、Zoomなどのオンラインで接続し、落ち着いて話せる自由な環境でセッションできることが特徴です。手法として「カウンセリング」「コーチング」とは定義していません。それに近いアプローチを用いることもありますが、手法には固執せず一人ひとりの状況やコンディションに合わせて対話をしています。たとえば話してくださる内容を受けとめ、僕はその方の気持ち、想いを映しているだけのときもあります。
――映しているだけ?
はやし:はい。湖や鏡と表現することもあります。受けとめてその内容をお伝えし「どんなことを感じますか?」と聴くんです。そして、その方が自分自身を受容できるように肯定して、褒めて、自己変容をうながす。「力になります!」「教えます!」という対話のセッションはできないかもしれませんが、セッションを受けてくださる方と一緒に手を取り合って、次のステップに向けて伴走しています。
「自分らしい幸せ」を自分で定義する時代
――人の深い内面を見つめて伴走し続けることは、容易ではないと想像します。これまでの原体験や価値観をベースとしながらも、はやしさんを強く突き動かす原動力ってなんでしょう?
はやし:根っこからの動機として、人が何かをきっかけにこころの奥底から変容していくことがとても尊いと思っています。そして、さっきお話した元彼女もそうだったんですが、生きづらさを感じることは彼女が悪いわけでも、親や家族、まわりの人が悪いわけじゃない。誰ひとりとして悪くないのに生きることがしんどいと思ってしまう。それってめちゃめちゃ理不尽というか、許せなくて……。それを細胞レベルで何とかしたいと思ってる。それが僕の原動力です。せめて僕が出会う一人ひとりが自分らしく輝き、人生をハッピーに生きてほしい。そこに向けた尊い変容を「対話」を通して一緒に遂げたいと本気で願っています。だから僕はこの対話事業に人生をかけ、命を注いでいるのだと思います。
――はやしさんの想いの強さが伝わってきました。これからのビジョンはどのように考えてらっしゃいますか?
はやし:対話や相談がもっとあたりまえになって、やさしい社会になることをこころから願っています。自分の話を人に聴いてもらう、誰かを頼って相談すること。自分の事業や生き方を通して、それがもっとあたりまえになったらいいなと思っています。
――「対話」「相談」の文化を浸透させるうえで、その重要性を知ってもらうことが大切だと思いました。はやしさんは対話の重要性についてどのように考えてらっしゃいますか?
はやし:少しずつですが、今は多様な生き方が許容される時代になってきていると思うんですね。そういう社会の転換期を迎えるなかで、自分らしい幸せ・生き方を自分で定義しないといけない時代になってきている。とはいえ、資本主義社会をベースに生き方が多様化されるのって、けっこう大変な時代なのでは? と個人的に感じていまして。そういう時代において、自信や自己肯定感を持ち、自分が考えていることを受容されることは必要だと思うんです。対話はその手段のひとつ。時代背景的にも、社会という視点でも、個の単位で見ても必要だと思っています。だから、僕の事業や生き方を通して、対話があたりまえになることを願っています。その想いを、ひとりでも多くの方に届けられるよう、これからも表現し続けていきます。
――この記事が大切な出会いにつながることを願っています。
はやし:この記事を読んで何かを感じていただけた方は、どんな些細な違和感や相談からでも大丈夫です。ぜひお話を聴かせてください。
――最後に、こんな質問をさせてください。過去、わたしは他者に素直な想いを話せなかった時期がありました。こころの奥底では対話や相談をしたいと思っていたけど、臆病で殻に閉じこもっていました。そんな過去のわたしのような人が目の前にいたら、はやしさんはどんな言葉をかけますか?
はやし:過去のはとださんの想いを重ねてくださり、ありがとうございます。では僕なりに、過去のはとださんに向けて言葉を贈ります。
「人や社会に不安、恐れがあるのなら、無理して人を信じなくてもいいし、自分を変えようと思わなくてもいいんです。でもほんの1mmでも自分の気持ちに素直になりたいという想いを持っていましたら、まずあなたが思っていること、感じていることを自由に話してみてください。ただ、思い浮かんだ言葉だけでも大丈夫です。僕が、あなたの話を聴きたいんです。よかったら話してみてください」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。対話セッションに「少し興味がある」「まずは話を聴いてみたい」というところからでも大歓迎です。お気軽に、以下よりご連絡お待ちしております。
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