三島由紀夫は良い
私が中学生くらいの頃から、祖母に散々勧められていた三島由紀夫。当時は名前もタイトルも固っ苦しくて敬遠していた。けど20を過ぎた今になって読んでみると、良い、あまりにも良すぎる。
言葉を操ることに対して、下手な小説家にありがちな意気込みや暑苦しさのようなものが無く、それでいて圧倒的な語彙と唯一無二の表現力を持ち合わせているため、読んでいるこちらも気持ちが良い。
読み勧めていると分からない単語や、地名が頻出するが、そこは雰囲気とノリで補うのである。
私が三島文学を読むにあたり、情景描写はさほど重要ではない(もちろん理解できるに越したことはないが...)。なぜなら、私が三島由紀夫に期待しているのはものすごーーく回りくどい、そして思わず唸ってしまうような秀逸な比喩表現だからだ。
金閣寺の中でこんな一節がある。
彼女はおそらく、暁闇のなかに、無意味にうごめいている、つまらないくらい小さな穴、野の小動物の巣のような汚れた無恰好な小さな穴、すなわち、私の口だけを見ていた。
主人公は吃音で、うまく言葉を出すことが出来ず、そのせいで周りとも溶け込めていない事を強くコンプレックスに感じている。主人公の劣等感や自己否定感、そして外界への恐怖心をここまでうまく表現できる人間がいるだろうか。
「いや、普通に彼女はおそらく私の口だけを見ていた。って言えよ!笑」
と思わないこともないが、そこが良いのである。
三島由紀夫の比喩表現には無駄がない、私の語彙力を見ろ、というような暑苦しさがない。先程あげた文章も、主人公の根暗で卑屈な、それでいて豊かな内面世界の解像度を補う手段として、とても自然である。
みんな、三島文学を読もう。