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『産み控え』の表現がなぜ炎上したのか多分彼らは理解できない

先日、カーナビの流すニュースが、今年の出生率は低下した言っていた。そしてさらに、

産み控えが広がり

と続けた。
これは炎上するだろうなぁ、と思ったら案の定炎上した。
この表現を考えた人は、本当にこの言葉遣いに対して違和感がなかったのだろうか。読んだアナウンサーは、引っかからなかったのか。

誰も気にもとめずに放送されてしまったのであれば、それはメディアにあまりにも想像力がないか、もしくは出産や育児というものを他人事と捉えている人しかいないということだろう。
つまり出産を控えた、あるいは産後の女性や、そう言った女性のパートナーだ。

「控え」というのは、「待機する」とか「順番を待つ」と言った意味合いをもって使うらしい。

「産み控え」という表現自体はgoo国語辞書にも載っていたので従来使用されている言葉のようだけれど、今回の場合は、
「コロナが流行って女性が出産したくないから、女性(あるいは適齢期の男女)が子どもを作りませんでした」
と言っているように聞こえる使い方だったのが炎上の要因だろう。

COVID−19は、今なお収束の気配はおろか、特効薬やワクチンも完成していない。それどころか、具体的に発症率や致死率、つまりどれほど恐れるべきウィルスであるかということも、漠然とした理解しかされていない。

妊婦が罹患しても影響はないと言った報道もあったが、まだ確証を得られている様子もないし、それでなくとも心身ともに負担のかかる妊娠・出産をこの不安定な医療体制の中で行うことに不安もある。
積極的な妊活は、今は控えようという思考もわかる。

一方で、女性にはタイムリミットがあるのも事実だ。
医療の発達で高齢出産も増えているようだけれど、やはりハイリスクであることには違いない。コロナ禍ではあっても産後の体力を考えても、少しでも若い今のうちに出産しておきたいという心理も当然だと思う。

ましてや、不妊治療をしている人たちなどは、精神的、体力的、金銭的、あらゆる意味でアフターコロナを待つような悠長さはないだろう。

それに、わたしもコロナ騒ぎの半年前に出産した身だけれど、やっぱりコロナ禍の育児はしんどい。
子育て支援センターも以前ほど気楽に通えないし、公園遊びでもとても気を遣う。連れて外出するにもマスクもできない、あちこち触る乳児連れは、それでなくても神経質になったものだけど今は上の子の頃の比ではない。
親元に帰省することもままならないので、どんどん成長する赤ちゃんを祖父母たちは動画とテレビ電話で愛でるのみ。
友人に会って気晴らしするのも憚られる。
親子で孤立する感じはやはりコロナ前よりも難しくなった。給料の下がった人も多い今、育てることを考えても踏み切れない環境もあると思う。

産みたい人も、今は産めないという人も、産まないという人も、全部本人たちが本人たちを囲むあらゆる状況から決めたことだ。それは、「赤が好きなので赤い靴を買います」というような単純な話ではない。
生むも生まないも、こと女性にとってはそれこそ人生を変える大きな決断で、簡単に結論づけられる問題ではない。

出生率が下がった、という事実を報道するのはいいと思う。
ただ、その裏には悩みと決断がある。

冒頭ではもう少し優しいニュアンスにしたのだけど、結局「産み控え」という表現は「少子化してるから産めって言ってるのに、コロナだからって産まないから赤ちゃんが減りました」と言われているようだった。
これは女性やそのパートナーが妊娠・出産・育児で背負うものの大きさに対して、短絡的で乱暴な表現だったかと思う。



それから、わたしはもう一つひっかかったことがある。
厚生労働省も「妊娠を控えたり、外出自粛に伴い届けを出していない」という考察をしていることだ。

まず、ひとこと言うなら、「平時に妊娠届を出す妊婦は、外出自粛といえど妊娠届を出します」。
だってそうしないと補助が受けられないから。

妊婦健診の費用は保険適用外。
地域や病院にもよるけれど、わたしが第1子を里帰りまで診てもらった総合病院(個人病院から有無言わさず紹介された)は、エコーだけの日で持ち出しが3000円くらい。ほかの検査もある日には、多くて2万円程度掛かっていた。
補助チケットを使っても、だ。

チケットは少ない額で4000円分、多い額で10000円分くらいの割引額だったとおもう。
妊娠初期と後期は2週間おきの受診で、そのたびに満額(チケット4000+持ち出し3000の合計)自腹だったら結構痛い出費になる。

わたしだったら届けを出すだけで補助がもらえるなら、しっかり感染対策をして、有給もらって人の少なそうな時間に申請しに行く。

「外出自粛」って言ったって、母子手帳だって欲しいし(これも妊娠届を出すとくれる)、もちろん病院からも申請を促されるし(母子手帳には妊婦健診の記録を病院が記載する欄がある)、ぜったいに申請する。

本気で外出自粛のために妊娠届を出していない人が沢山いると思っているなら、厚生労働省はスカポンタンだと思う。

✳︎

「少子高齢化」
というワードを耳にするようになってもう随分たつけれど、多分相当先にならないと改善しないだろうなと思う。

わたしだって、夫と結婚することになるまでは子どもを持つつもりはなかった。なんなら、積極的に子どもは作らない、と決めていた。
結局夫と結婚する時に、「この人は素敵な父親になるだろう。この人に子どもを抱かせてあげたい。この人の子どもが欲しい」と思ったのだけれど。
これは、あくまでも夫婦になることで気持ちが変わったに過ぎない。

絶対にマザーズトラックに乗ることのない人たちが、
物心ついた時から『不景気』の中で育ち、
家長制度の残る世代が運営する家庭にいながら「男女平等」と教えられ、
「働くお母さん」を目指せと言われる、
わたしたちゆとり世代を、理解できようとは到底思えないのだ。


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