英国が農家支援を拡充

英国の環境・食料・農村地域省(DEFRA)は1月5日、新たな農業政策「環境土地管理スキーム」(ELMS)に基づく農家への補助金の支払いを増やすと発表しました。持続可能な農業の実現に向け、環境に配慮した取り組みを進める農家への支援を強化するとともに、資材価格の高騰に伴うコスト増の打撃を和らげる狙いもあります。新たな共通農業政策(CAP)を導入した欧州連合(EU)とともに、欧州では「農業のグリーン化」が加速しています。

英国は2016年6月の国民投票でEU離脱を決め、2020年1月末で実際に離脱しました。これにより、英国はEUのCAPに代わる独自の農業政策として、ELMSへの移行を進めています。CAPは主に農地面積に応じて農家に補助金が支払われてきたため、上位10%の大規模農家に補助金総額のほぼ半分が支出され、「大規模農家への支援に偏り、中小規模農家への支援が不十分だ」と批判されてきました。

BBCによると、ELMSへの移行は英国の農業政策にとって40年ぶりの大改革となります。CAPでは年35億ポンドが英国の農家に支出されていました。DEFRAはEU離脱(ブレグジット)後の新たな農業政策について、「グリーン・ブレグジット」とアピールし、農家の規模にかかわらず、環境に配慮した農家を重点的に支援する方向を打ち出しています。

2021年3月の発表同年6月の説明によると、ELMSは「2050年の温室効果ガス排出の実質ゼロ」などの目標に向け、「持続可能な農業インセンティブ」(SFI)と「地域の自然回復」、「景観の回復」の3つのスキームで構成されています。「きれいで豊富な水」「きれいな空気」「豊かな植物と野生動物」「環境災害からの保護」「気候変動の緩和・適応」「美しさや遺産、環境とのかかわり」といった課題に取り組む農家や土地管理者に対し、補助金を交付して支援しようというものです。

SFIスキームは、生け垣や草地を設けるなど、環境的に持続可能な方法で土地を管理する農家に対し、取り組み内容に応じて補助金が交付されます。2021年に試行的に始まり、段階的に拡大して2024年までの完全実施が予定されています。地域の自然回復スキームは、地域の自然回復を支え、環境面の優先課題に取り組む行動に対して交付されます。2022年に試験的に始まり、2024年に正式に始まる予定です。景観の回復スキームは、原生林の復元や大規模な植林、泥炭地や塩性湿地の再生によって景観や生態系の回復を支えるもので、2022年に約10事業が試行され、2024年に正式に始まる予定となっています。

今回は、SFIスキームについて、基準を満たした農家に対し、50ヘクタールを上限として、1ヘクタール当たり年20ポンドが支払われると明らかにされました。1農家への支払額は最大1000ポンドとなります。SFIスキームに基づき、土壌や荒れ地の改善に取り組む農家に対して既に補助金が交付されており、それに上乗せされることになります。1農家当たり最大で50%程度の増額となる見込みで、具体的な基準は近く明らかにされるとのことです。

また、「カントリーサイド・スチュワードシップ」(CS)という別の支援枠組みに基づく支払いを平均10%増やすことも盛り込まれました。CSは、生物多様性の拡大や動植物の生息地の改善などを目的とし、イングランドの約3万農家が参加し、補助金が交付されています。生け垣を作るなどの取り組みに1回限りで支払う補助金を平均48%増やすことも明らかにされました。BBCによると、一連の支援策の財源は既存予算の中から捻出されます。

マーク・スペンサー農業相(DEFRAウェブサイトより)


マーク・スペンサー農業相は2023年1月5日、オックスフォード農業会議で講演し、発表内容を自ら説明するとともに、「シンプルで分かりやすい仕組みにしていくので、ぜひSFIに参加してほしい。SFIもCSも2023~2024年に対象を拡大していくので、何が自分たちにとって適切かを判断してほしい」などと訴えました。スペンサー氏は酪農家出身で、2010年5月から保守党の下院議員を務めてきました。トラス前政権下の2022年9月7日に農業相に就任し、スナク政権下でも留任となりました。

これに対し、英国で最大の農業団体ナショナル・ファーマーズ・ユニオン(NFU)は2023年1月5日にコメントを出し、「歓迎する」と一定の評価を下しつつも、「われわれが経験している経済的な困難と直接支払いの急速な縮小を考えると、(金額が)少なすぎて(実施のタイミングも)遅すぎる」と批判しています。ロシアによるウクライナ侵攻の影響により、飼料や肥料、燃料などのコストが上昇し、農家の経営が苦しくなる一方、ELMSへの移行によって従来からの直接支払いは減るため、この程度の増額では全く不十分である上、やるならもっと早くやってくれということのようです。

NFUはさらに、「ELMSや利用できる選択肢について必要な情報を得られないまま、農家や生産者が事業を行う上できわめて重要となる長期的な決断を行っていることを残念に思っている」と、政府の動きの遅さに強い不満を表明しています。40年ぶりとなる農業政策がまさに行われているのに、具体的な内容がなかなか示されず、これでは適切な対応ができないと憤っています。その上で「参加する農家にとって、シンプルで、確実性があり、公平なものでなければならない」と政府に注文をつけました。

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