COP28で農業宣言が採択 気候変動問題で重要性増す
国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が11月30日から12月13日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれました。化石燃料からの脱却を目指すことで合意する一方、持続可能な農業と気候変動対応の強化を目指す首脳級宣言(エミレーツ宣言)①②が採択されたり、国連食糧農業機関(FAO)が具体策を盛り込んだ「グローバル・ロードマップ」①②を公表したりするなど、農業・食料分野でも動きがありました。農業・食料分野の取り組みが気候変動問題で重要性が増していることが改めて浮き彫りとなりました。
農林水産省によると、エミレーツ宣言は、日本が議長国となって2023年4月に宮崎県で開かれた先進7カ国(G7)農相会合の閣僚宣言を後押しする内容だということです。12月1日に日本や米国、欧州連合(EU)、中国など134カ国・地域の署名で採択されました。参加国・地域はその後も増え、150カ国・地域を越えました。
エミレーツ宣言は、世界の気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑えることを目指す気候変動対策の国際合意「パリ協定」に関し、「目標達成の道筋には農業・食料システムを含まなければならない」として、農業・食料分野の対策が重要だとの認識を強調しました。その上で、「気候変動の課題に対応するため、農業・食料システムを緊急に適応させ、変革しなければならない」と指摘しました。
2025年までに行う具体策として、国家適応計画や長期戦略など各国の気候変動対策に農業・食料分野の取り組みを盛り込むほか、食品ロスを減らしたり、温室効果ガスの排出を削減したりすることをうたっています。さらに、官民の資金支援を拡大したり、イノベーションを加速させたり、世界貿易機関(WTO)を中核とする公平・公正で透明性のある多角的貿易体制を強化したりすることも表明しました。
このほか、2030年までの国連の持続可能な開発目標(SDGs)まで残り7年となったことに触れた上で、「農業や気候、エネルギー、環境、金融、保健などの各省庁間や、多様な利害関係者との間で、国内での協力を強化する」とも言及しました。いずれも既に行われているようなことばかりで、真新しさは感じられませんが、150以上の国・地域で改めて合意されたことに意味はあるのかもしれません。
宣言を取りまとめたUAEのアルムハイリ気候変動・環境相は「食料システムと農業、気候との関係にただちに取り組まない限り、パリ協定を達成し、気温上昇を1.5度以内に抑える道はない」と述べ、気候変動対策として農業・食料分野の重要性を強調しました。その上で、「各国は、食料システムと農業を気候変動対策の中心に据え、世界的な排出増加に対応するとともに、気候変動の最前線で生活する農業者の生活を守らなければならない。今回の世界各国のコミットメントは、未来にふさわしい世界的な食料システムの構築に役立つだろう」とアピールしました。
一方、FAOは12月10日、エミレーツ宣言を達成するための「グローバル・ロードマップ」を公表しました。農業・食料システムを炭素の排出源から吸収源に転換させることを目指し、「畜産」「漁業・養殖」「作物」「健康な食事」「森林・湿地」「土壌・水」「食品ロス・廃棄」「クリーン・エネルギー」「包括的な政策」「データ」の10分野で120の行動を盛り込んでいます。
畜産では、「優れた遺伝子によって生産性を向上させる」「給餌方法の改善で生産を強化する」「獣医療の改善で動物の健康を守る」など9項目の行動計画を打ち出しました。漁業・養殖では、「長期的な生産性を支え、需要の増大に対処するための持続可能な取り組みを改善させる」など9項目が盛り込まれています。
作物では、「品種改良や遺伝学を改善する」「肥料散布の効率化によって栄養管理を改善する」「化学製品の使用を減らすため総合的害虫・雑草管理(IPM)によって作物を保護する」など13項目が打ち出されました。コメの生産で温室効果ガスのメタンが多く排出されることから、「メタンの排出を減らすため、コメの農法を改善する」との項目も含まれています。温室効果ガスの排出削減の観点から、コメ生産の見直しが指摘されています。