英国が農家支援策を拡充 利用低迷でてこ入れ
英国のスティーブ・バークレー環境・食料・農村地域相は2024年1月4日、農業支援策「環境土地管理スキーム(ELMS)」を大幅に拡充すると表明しました①②。欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)を受け、共通農業政策(CAP)に代わる新たな支援策として2028年に完全移行する計画ですが、農家の評判が良くなく、申請して利用する人が低迷しており、てこ入れを迫られました。補助金の増額や申請手続きの簡素化などを打ち出しました。
バークレー氏は同日のオックスフォード農業会議で講演し、「農家は英国の食料を維持するため、不可欠な仕事をしている。だからこそ、私は農家や農業ビジネスを支援していく」と説明しました。その上で、「われわれは農家の意見に耳を傾け、(2020年1月末の)EU離脱後、最大となる農業制度のアップグレードを打ち出した」とアピールしました。
英国はEU加盟時はCAPを採用していましたが、離脱に伴い、CAPを段階的に縮小し、ELMSへの移行を進めています。主に農地面積に基づいたCAPによる直接支払いは2021年から徐々に減らし、2027年に完全に廃止する予定です。その一方で、ELMSに基づき、環境に配慮した取り組みを重点的に支援する新たな直接支払いを2021年に開始し、徐々に拡大した上で、2028年に完全移行する計画です。
ELMSは「持続可能な農業インセンティブ」(Sustainable Farming Incentive=SFI)と「カントリーサイド・スチュワードシップ」(CS)に大きく分かれ、合計で数百に上る補助金メニューが用意されています。いずれも農家や土地管理者が食料生産とともに環境保護に取り組んだ場合に支払われますが、SFIは標準的、普遍的な取り組み、CSは地域の特性を踏まえた取り組みが対象という違いがあるようです。農家らが自分に適した支援策を探し、オンラインで当局に申請することになっています。
環境・食料・農村地域省(DEFRA)によると、2023年のSFIへの加入は8000農家程度にとどまり、対象となる8万2000農家の10%未満に低迷しています。新制度の全体像がまだよく分からないことに加え、加入手続きが面倒であることが大きな要因であるようです。
今回の見直しには、補助金支払額を平均で10%引き上げることや、SFIとCSへの申請手続きの合理化、約50の補助金メニューの追加などが盛り込まれました。新たな支援対象としては、農業と林業を組み合わせたアグロフォレストリーや、除草での農業技術の活用などが盛り込まれました。詳細を詰めた上で、2024年夏に申請を受け付け始めるということです。
バークレー氏は講演で、英国食品の安全性や環境への配慮、動物福祉に関する基準は高いとした上で、消費者が英国産とそうでない食品を見分けられやすくなるように、食品表示制度を強化する考えも示しました。食品の原産地に関する表示を強化するということです。
一連の発表について、英農業団体ナショナル・ファーマーズ・ユニオン(NFU)は歓迎する姿勢を示しつつも、「依然として答えより疑問の方が多い」と慎重な見方を示しています。2024年にはCAPに基づく直接支払いが50%削減される一方、ELMSの全体像が依然として不明であるとして、政府に早く示すよう求めています。
NFUはさらに、ELMSによって環境に配慮した農業に移行することにより、生産が大きく減少し、英国の食料安全保障を脅かすことにならないのか、影響評価を早急に示すことも政府に求めています。NFUのデービッド・エクスウッド副会長は「食料生産の増加と環境のバランスが取れた政策が絶対的に不可欠だ」と強調しています。農業生産の増加と持続可能性をどう両立させるかが英国でも問われています。
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