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国連報告書、最大で7億8300万人が飢餓に直面

世界食糧計画(WFP)や国連食糧農業機関(FAO)など国連5機関は2023年7月12日、2023年版の「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」を公表(1)(2)しました。2022年には世界で6億9100万~7億8300万人が慢性的な栄養不足という「飢餓」に直面したという内容です。前年比ほぼ横ばいですが、新型コロナウイルスが流行する前の2019年を上回っており、高止まりの状況が続いています。コロナに加え、ロシアによるウクライナ侵攻が世界の食料安全保障に悪影響を及ぼしており、持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「2030年までに飢餓をゼロに」の達成は一段と難しくなっています。

報告書をまとめたのはWFPとFAOのほか、国際農業開発基金(IFAD)と国連児童基金(UNICEF)、世界保健機関(WHO)です。毎年公表しています。

報告書は、2022年の飢餓人口の推計値を6億9100万~7億8300万人と幅を持たせていますが、中間値として7億3510万人という数値も示しています。世界人口の9.2%に相当します。今でも世界で1割近くの人々が十分な栄養を取れていないのは深刻な状況だと言えます。2021年は6億7460万~7億9690万人、中間値は7億3890万人だったので、中間値の比較では380万人減り、飢餓人口の割合も0.1ポイント低下しました。いずれも5年ぶりの減少となります。

しかし、WFPなどは改善したとは言いたくないようで、コロナ前の2019年(6億1280万人)より1億2200万人以上も増えたと強調しています。今後は緩やかに減少するものの、2030年には依然として5億9030万人が飢餓に直面するとの予測を示しています。2030年の飢餓人口について、コロナ前は4億7180万人、ウクライナ侵攻前は5億6760万人と予測していたので、コロナとウクライナ紛争という2つの要素によって悪化していることになります。

2022年の飢餓人口の割合を地域別に見ると、アフリカが前年比0.3ポイント上昇の19.7%と、5年連続で悪化しました。紛争や貧困、気候変動の影響などでもともと食料安全保障が脆弱であったところに、コロナやウクライナ紛争が追い打ちを掛けたと言えます。アフリカの中でも中部が0.6ポイント上昇の29.1%、東部が0.1ポイント上昇の28.5%となり、人口の4分の1以上が飢餓に直面するという厳しい状況となっています。

アジアは0.3ポイント低下の8.5%と5年ぶりに改善し、中南米カリブも0.5ポイント低下の6.5%と3年ぶりに改善しました。しかし、アジアの南部と西部はそれぞれ15.6%、10.8%と高く、カリブも16.3%に達しています。地域によって大きなばらつきがあるのが現状です。

報告書の発表を受け、FAOの屈冬玉事務局長は「パンデミックからの回復にばらつきがあり、ウクライナ紛争が栄養のある食事や健康的な食生活に悪影響を及ぼしている。気候変動や紛争、経済的不安定がニューノーマルとなっている」と警鐘を鳴らしています。その上で「われわれはこれまでと同じアプローチを取ることはできない」と指摘し、支援策の抜本的な見直しを訴えています。

IFADのラリオ総裁は「飢餓のない世界は実現可能だ。われわれに欠けているのは大規模な解決策を実施するための投資と政治的意思だ」と述べ、資金支援の拡大を求めています。具体的には、小規模農家への投資、気候変動への適応策に対する投資などを挙げました。WFPのマケイン事務局長も「最も弱い立場にある人々を守るために緊急に必要な資金は危険な水準まで不足している」と指摘しました。

飢餓には各国の政治や経済、社会、環境などさまざまな要因が絡むので、世界共通の簡単な解決策はありません。国連機関としては、飢餓の状況は依然として深刻なので、世界各国は取りあえずもっと金を出してくれないかと言いたいようです。

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