松山演劇界の地図を描くvol.2ー観劇記:coup company『少女漫画なんかこわくない Rep!ay』ー
1.作品について
【みた日】
2024/8/18(日)14:00~
【みたもの】
coup company『少女漫画なんかこわくない Rep!ay』
【みたばしょ】
シアターねこ(愛媛県松山市緑町1丁目2番地1)
【作品紹介】
シアターねこでの最後の舞台は、
シアターねこでしか出来ない、少女漫画のような物語で綴る
ベタベタトライアングルラブストーリーを再演します!!
貴方は目撃してしまうかもしれない・・
出会い頭に女の子と男の子がぶつかる、あの瞬間を・・
そして、少女漫画のあの問題に今回こそケリをつけることが出来るのか!?
クゥカン的ニヤニヤむずキュンエンターテインメントをお観逃し無く!!
(公演チラシより引用)
【劇団紹介】
愛媛県松山市を中心に、池内いっけんの作・演出によるコントのような芝居のような舞台を年2回のペースで公演活動している演劇制作ユニット。
(公演チラシより引用)
2.雑感
夏のサイダー
どうも。少女漫画は、「序盤の両片思いぐらいの展開が一番熱い!」と思っている伊吹です。そんな私が、少女漫画的要素全開のクゥカンさんの舞台を観てきたので、その様子を少しご紹介できればと思います。
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サイダーが無性に飲みたくなるような夏の昼下がり。ゆらゆら陽炎の立ちのぼる道を抜け、シアターねこへ。
SHISHAMOが流れる劇場に入ると、地元誌で見たことがある人(本谷さん)と他のお芝居で見たことがある人(劇団UZの林さん)が。芸能人に会ったみたいで少し緊張した。開演5分前のこと。客席はほぼ満席だった。SHISHAMOは自分の青春だったから、もう少し早く来れば良かったと後悔した。
お芝居は、食パンをくわえた高校生の女の子と転校生の男の子が曲がり角でぶつかる(この二人の学校はいったいどの位置にあるのか、というのは少女漫画七不思議のひとつですが)という定番の展開からスタート。主人公の女の子には幼馴染の男の子がいて、この3人のラブストーリーを軸に、少女漫画の定番をこれでもかと詰め込んで、物語は進んでいく。
途中、だんだんと家で観たい気分になってきた。日曜日、うだるような暑さの中、クーラーをガンガンにきかせて、家の床に寝転んでアイスを食べながら観たい。もしくは映画館。ポップコーンとコーラを買って、誰かと観たい。それで終わった後、マックでポテトを食べながら、感想を話したい。オープニング映像まで制作されていたこのお芝居は、それくらい親しみやすくポップだったし、なにより心理的な“近さ”とドキドキがあった。パイプ椅子が並んでいるだけでそこが教室に見えてしまうことや、黒板消しクリーナや試合開始のサイレンの「細かすぎて伝わらないモノマネ」は、演劇に特有の(そしておそらく少女漫画の擬音を意識した)表現だけれど(映画やドラマなら、実際の教室で撮影するし、実際の音が用いられると思う)、だからといって、敷居の高さがあるわけではない。それこそ映画みたいに、1か月間くらい毎日上演してほしい。ネットフリックスにあってもいい。
そんなふうに思えてきた私をよそに、舞台上の3人は絶妙なもつれをみせながら、夏を過ごし、秋を超え、物語はクライマックスを迎える。ここにも秀逸な仕掛けが用意されていて、主人公がどちらの男の子と結ばれるかは観客の投票によって決まる。つまり、結末は2パターン用意されていて、観たい人が多かった方が実際に上演されるというわけだ。投票をする中で物語に思いをはせ、想像はどんどん膨らんでいく。一番楽しいのは案外こういう時間だったりする。
私の観た回では、主人公は転校生と結ばれ、最後にきれいなオチがついて終演となった。帰り際には、ステッカーやTシャツの販売もあり、さながらアーティストのライブ終わりのようだった。
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と、まあ、こんな感じでした。
自分たちの物語(表現活動)の結末は?
少し大きな話になりますが、お芝居を観て、これからの表現活動について考えました。人と(広い意味での)表現活動との関係は、時代とともに変化するものではありますが、現代においては“近さ”がトレンドだと感じます。YouTubeやTikTokやPodcastによって、いつでもどこでも誰でも表現活動を「する/みる」ことができる時代です。プロとアマチュアの境界線が曖昧になり、都会に行って芸能事務所に所属するということをしなくても、それが“良い”表現であれば認められるし、推され、ファンができる時代です。私の好きな小倉知巳(おぐらともみ。東京のイタリアンシェフ。料理も自分自身が食べて欲しい、表現したい味を作るという点で、(広い意味での)表現活動といえると思います)さんも、YouTubeがなければその存在を知ることすらなかったでしょう。
そうであるとするならば、地方の小劇場での地元劇団による演劇は、この時代において、最も可能性を秘めている表現活動といってよいはずです。なぜならそこには、①小さな空間で行われるという、俳優と観客との身体的な距離の“近さ”、②劇場に行けば遠出しなくても会えるという、アクセスの“近さ”、③同じ地域に暮らしているという、心理的な距離の“近さ”、④その地域に身近な題材を取り上げるという、話題の“近さ”、というように様々な“近さ”があるからです。今この世界で流行している様々な表現活動と同じように、毎日のように公演があったり、特定の俳優を推して「推ししか勝たん」と言ったり、ファン同士の呑み会を開いたり、グッズを買ったりする世界線が、私にはおぼろげながら見えてきました。そこにたどり着くためには、残念ながら多くの困難があることもまた確かです。しかし、演劇を高尚なものとして考えるのではなく、もっともっと身近な楽しみとして捉えるべきであるというのは、たしかなことのように思います。「今日の仕事終わったら、推しのライブ行くぞ~!」という高揚感と同じように「今日の仕事終わったら、お芝居観にいくぞ~!」とドキドキできる日常が、人生を楽しいものにしてくれることは疑いようがないと思います。
そのことに思い至らせてくれたのがこのお芝居でした。自分たちがこれから何を欲していくべきなのか、少しだけ分かった気がします。届くことはないかもしれないけれど、この場を借りてお礼を言わせてください。クゥカンさん、ありがとうございました。
3.余談
coup company RADIO『鈴木全の人気がなくて何が悪い?』では、公演の裏話が聴けるかも!?”金メダル”(よのなかメダル)のグッズ販売に期待!