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マウントウーマン

私が働くお店はカウンター席しかなく、10席ほどしかない小さな居酒屋だ。

出勤は昼間の仕事が終わって、大体19時から19時半ごろ。
バーだと思われることも多く、21時以降の遅い時間に混むことが多いのにも関わらず、出勤すると女性2人が既にカウンターに座っていた。
しかも2人とも1人飲み女子。
もちろん女性が来ることもあるが、ほとんどは男性のお客さま。
早い時間から女性がいるなんて珍しいな~と思いながらエプロンをつけて厨房に入る。

奥に座っているのは黒髪でポニーテールがよく似合っている20代後半くらいのきれいなお姉さん。

入り口側に座っているのはおそらく30代くらいのお姉さま。
昔、スナックとかクラブとかで遊んでいたかなぁ~、働いたことありますって言いそうだなぁ~という雰囲気の方。

オープン時間と同時に来たようでオーナーは準備をしながら忙しない様子で接客をしてた。30分ほど会話をして20代の女性はお会計を済ませて店を出た。
オーナーも買い出しで外出し、私と30代女性2人っきりになった。

話を聞いている限りこの人は
自分が大好き(素敵なこと)で
自分に自信があって(とても素敵なこと)
無意識にマウントをとってしまう(きっと無意識)
ちょっぴり苦手な分野の方だなぁ~と思っていた。

正直なことを言うと、正面から見たとき
あ、この人、まぁまぁ顔に課金されている方だな、と気づいた。別に課金することに否定的ではないし、なんなら私も金さえあれば課金したいところは山ほどある。が、課金の中にもやりすぎてちょっと不自然じゃね?という人も見かける。お客さんはその類の人だった。

「ここ、目立ちます~?」

と顎を指差した。
あごには内出血の跡があった。

「えっ?どこですか???あ、なんかあざみたいになってますね!全然言われるまで気づかなかったです~!!!」

この人はきっとこのあざの理由を聞いてほしいんだろう。
正直、会った時からあざに気づいていたし、この人酔っぱらって怪我でもしたんかな、と勝手に想像していた。(のんべえのお客さんが多いので酔っぱらいの怪我話をよく聞くのである)だから、それ以上、それ以下でもないと想定して聞かないでいた。

「昨日、ボトックス打ちにいって~初めてこんなあざができちゃったんです~!」

先ほどから代官山エピソードや海外エピソードを聞いていたのでこの人は自分お金持っているアピールをしたいのか、と勝手に解釈。

「えーーー!ボトックスなんて打つ必要ないじゃないですか!しかも、今日ってもしかしてノーファンデーション(すっぴん)ですか・・・?」

と私はどんどん持ち上げていく。
こういうときに、どす黒い私が垣間見えてくる。
本当によくない。女は怖いと自分でも思う。

「そうなの~!あざもコンシーラーでうまく隠れなくて~だから今日はすっぴんなの」

「やっぱり!?めちゃくちゃきれいですもんね!!ツヤツヤだもーーーん!」

どんどん上げていく。

話をしているうちにそこそこ時間も経ち、
いろんなお客さんが来店し始めて、女性のお客さんはいろんな人に容赦なく絡み始める(特に男性に。)きっと、おごってくれる人を探している。
少し酔っぱらっているため、あまりよろしい感じの距離の詰め方ではない。
ほかのお客さんを巻き込むわけにはいかん!と思い
極力、絡まないように、絡めないようにどんどん違う話を振っていく。
こういう時、結構エネルギーを使うし、エネルギーを吸い取られる感覚になる。

はぁ、、、疲れた…と思いつつ外を見る。

出勤中は、入り口で立ち止まったり、お店が気になっている人がいないかな?とチラチラお店の外を見るように意識している。外観も昭和レトロで珍しいため、お店を気になってくださる方が多い。
今日は、人が少ないな~と思って見ていると

「今、あの人私のこと見てたよね~?目が合っちゃった!」

ーーーーーーーん?とんだ勘違い野郎だ。

「あ、お店の雰囲気が気になって見ていただけだと思いますよ。ここは外観も昭和レトロな店で珍しい~ってよく覗いたりチラチラ見てくる方がとても多いんで。多分、お店を見てたんだと思います。」

ーーーーーーー ・・・・あぁぁぁ!!!
早口で冷たい女な言い方をしてしまったーーー!!!何言ってんだコイツ的なニュアンス混じりでいってしまったああああ!!
ましてや、年下の若造にこんなことを言われて絶対ムカつくよねーーー!!

だがしかし、運よくポジティブ人間の方だったので、一ミリも響いてなかったようだ。ちょっと経って、お客さんは誰かに奢ってもらうことを諦めたようで、次の店へむかって行った。

普段はそういう感情を表に出さないようにしているのに・・・今日は疲れが隠せなかったようだ。
(朝の6時半まで飲んでしまい、その上9時半から会社出社でそのまま居酒屋へ出勤していた→これに関しては自分の責任。)

お店も終わり、とぼとぼ帰りながら
今日はちょっとお客さんに変な態度をとってしまったなぁ~と反省しつつ、よくよく考えると自分に無いものを持っている人で嫉妬心もあったのか?と自問自答したりしてみる。

どうしても鼻についてしまうあのしゃべり方や自意識過剰なお客さんを思い出しながら(なんならモノマネしながら)クセある人は面白いな〜としみじみ感じる。
明日はどんなお客さんがくるかなぁ~と期待して、明日からも何より楽しく頑張ろうと思う。

ではまた。

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