21日間の21の間——「インディゴの気分」視覚テキスト分析(前書きと第一の間)
作者 Maomono
翻訳 sekiisekii
前書き
これは私個人の21日間で完成しようとするスペシャル・チャレンジです。ドラマにあるタバコのシーンを巡っての分析を終えて、「インディゴの気分」にある長回しを分析しようと思いましたが、長回しの醍醐味が言葉だけではちょっと伝わりにくく、それに動画を作る時間がありませんから、ついに諦めてしまいました。ただ、間(ま)という概念を中心に「インディゴの気分」の美しさを分析したら、面白いと思い、このチャレンジをはじめました。
ちなみに、「インディゴの気分」についてインタビューを受けたときに、三木監督は「間(ま)を作る」という言葉を何度も言い出した。Fanbookのアフタートークで次のように述べました。
では、「間」というものは、一体何でしょうか。「三省堂スーパー大辞林」で調べてまとめてみると、こうになります。
そのなかで、③④⑤が時間的な概念で、いずれも三木監督の「間」の意味に似ています。空間的な「間」でも時間的な「間」でも、その中心的な意味が空いている空間、すなわち余白というものだと思われます。
日本人はよく中国の水墨画にある余白というものを「間」と訳します。そして、様々な芸術様式にも応用されています。簡単的に言えば、余白はいわば穴のような存在しない存在(空間)なので、それは個々人の視聴者のいきいきした想像力や感情的な発想によって埋められ、補完されてはじめて、物事が完成されます。また、視聴者がそれぞれ違うので、余白の形は限りなく変化し、見事に移り変わっていきます。
「インディゴの気分」はオンデマンド番組・深夜ドラマで、静かでプライベートな環境で鑑賞される場合が多い。その際は視聴者が自分の心に直面する時でもあります。速い展開や高い声で視聴者の注意を引くように作られたドラマと違って、「インディゴの気分」は逆に、余白を意識的に作り、それを視聴者の想像力に任せて、自分なりの感情や気持ちで補完した上で完成した、いわゆる視聴者が協力して作られた作品です。だからこそ、「インディゴの気分」のファンには、鑑賞を終えてはじめてハマっていく方がたくさんいます。みなさんの体験からして、初めて見たとき、ただの六話で気がつかなかったことが多いですが、もう一度見たら、心が沸き起こってきたなんらかの感情につかまれたことがあります。「そこで彼は何を言いたいのか」、「彼は何で答えられなかったのか」などと、味わいながら考えているうちに、だんだん興味が深くなるのではないでしょうか。
「21日間の21の「間」」というプロジェクトは、一日に一つのシーンをめぐって、撮影技法(長回しとか)や登場人物の心理を補足説明し、「間」を含め多くの美を展示する予定です。21の「間」を最後まで楽しんで見ていただければ嬉しいです。
(本文ではドラマのすべての登場人物を呼び捨てにしています。)
第一の間 バーにて
第一話の冒頭のシーンである。東京のあるバーで、城戸士郎がその二人の「なんとも説明しづらい関係」について触れてから、木島は「付き合うことにしたんだ」という宣言する。
ただ59秒の対話に明らかな無言の時間が三か所もあって、それぞれ4秒、13秒、5秒も続く。日常生活の中でも、急に答えられなく、または返事できない場合も時々あるが、ドラマや映画では時間配分が細かく計算されるので、1秒以上の沈黙は贅沢である。そのため、合わせて22秒の「間」には、きっと何か深い意味が含まれているのである。
最初の4秒の間は木島が「付き合うことにしたんだ」と淡々と宣言してからのところだ。山形から東京にきたばかりの木島は腐り縁の城戸を飲みに行くと誘い、これから新しい恋愛を始めたことを城戸に知らせるが、わざと相手の名前を伏せる。そこで、木島は城戸が相手の名前を聞くのを待っている。その目的は、城戸を驚かせることであろう。思った通りに、「誰と」という質問が返ってくる。何気ないように見えるが、4秒も続く沈黙は城戸の不安を訴えている。自分はもう結婚しているから、元彼の新しい恋愛を阻止する権利がない。いくらいやでも、来るべきものはついに来る。
城戸が「久住君みたいな物好き、この先2度と現れられねえからな。」を言い出してから、また13秒の沈黙=間がある。城戸はやはり久住のことに驚いて急にむせるようになる。おそらく、次の二つの理由で城戸が驚くと推測される。例の若者がまさにニヒリストであるこの作家と付き合うようになるか、または、木島のタイプが変わった(久住は城戸とまったく違った人間だから)か。どちらにしても、久住と木島のコンビはいささか変だと城戸が思うだろう。そして、城戸は木島のこの決定を揶揄するが、このバカバカしい事実をまだ受け止められないように見える。木島は何の返事もしないままで、二人は再び無言に陥る。城戸にとって、木島の反応が予想外だ。まさか、あいつは本気なのかと思い、だんだん落ち着かなくなる。そのとき、氷がコップに当てた音がする。木島はウイスキーを一口飲む。城戸の本音は?木島は何よりもそれを知りたい。長い沈黙の挙句、城戸はこの前の冗談を謝ったように、大事にしろよと言いだす。これで13秒も続く沈黙が終わる。
木島が城戸の助言または祝福をもらってから、また5秒間沈黙する。彼はわかったやありがとうとかの言葉を口に出さないでずっと黙っている。城戸の冷静そうなふりに納得いかない木島はつらそうにタバコを取り出す。だよね、返事なんてこれしかないんだろう。つうか何バカの返事を期待してるんだよ僕は、と心に囁くであろう。
そのあとはまるで昔に戻ったように、タクシーでのキスの名場面があやうく再現する。バーにての二人の会話は、これからのタクシー車内の名場面のために伏線を張る。二人の何気ないふり、素直にならない話し合い、驚いて冗談めかした様子や無言しているときの探り合いなどによって、はじめての視聴者でもこの二人の尋常ではない関係が分かる。バーにての三つの間である沈黙は、「あの日々」の絡み合いと「今」の不安定感をはっきり表現している。