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もしかしてあなたは私ですか?
固定費削減のため、家賃の安いスラム街へ引っ越した。
家自体は新しいが、壁の薄い集合住宅なので隣の生活音がまあまあ聞こえる。
隣はアジア系外国人男性が住んでいる。元気な若者のようで、声がでかい。そしてよく電話をしている。何を言っているかわからないがうるさい。
うるさいにはうるさいをぶつけるのが私の精神衛生上の最善策なので、隣の声を感知するとおっさんががなりあう動画(ラップバトル)をYouTubeで再生する。隣の音が気にならなくなるしラップバトルはおもしろいしで大変よろしい。
おそらく隣人からは、我が家はビートに乗せて喧嘩しがちなおっさん複数名と犬がすし詰めで住んでいると思われていそうだ。
もうそれでいい。
スラム街なので、路上に謎のおっさんが点在している。
何をするでもなく、ただ佇んでいる。何もしないのは難しいと思うが、携帯を見るでもなく、新聞を読むでもなく、見事に何もせずただそこにいる。
野生のポケモンのほうがまだ何かしている。
最近は気温の上昇のせいか、アグレッシブなおっさんが出てきた。
夜、犬と歩いていると、大きめの橋の真ん中に初老の男性が座っていた。
足を投げ出す形で、服は着ておらず、しかし長めの紺色靴下と白いスニーカーを履いている。
靴下全裸おじだ。
靴下全裸おじは泣いていた。泣き顔で何事かをわあわあ言いながら尻をかいていた。おじの周りには黒い大きな袋がひとつ置いてある。
橋は青っぽいペンキで塗装されており、おじのたるんだ皮膚がぺっとり密着している。
靴下全裸おじを見ながら、懐かしい気持ちになった。
私もそれ、やったことある。
冷たい床の上で、周りはみんな服を着ているのに、私だけ網タイツにハイヒールの裸で、わあわあ言いながら泣いたことが複数回ある。尻は鞭でズダボロだったけど。
靴下全裸おじは平行世界の私かもしれない。
女版の世界は 網タイツハイヒール@地下室 で、
男版は 靴下スニーカー全裸@橋の上 なのかもしれない。
平行世界なのに一瞬交わってしまった。
また会ったら警察を呼ぼうと思う。
スラム街に馴染んできた。