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紳士的に見えること
三〇数年前、魚介類の商売をしていた頃、東銀座にしばらく住んでいたことがある。それはほかではなく、築地市場に毎日行くためだ。魚を売る日本人と商談し、皆早起きなので、「早起きは三文の得」ということわざ通り、誰とでも礼儀正しく接していた。少なくともぼくが住んでいた間は、一度もけんかなんか見たことがなく、むしろ魚を売る人も買う人もみんな紳士のように感じた。
しかし、今では築地市場は移転し、当時の思い出は実景で確認することができなくなったから、人々の記憶の中にしか残っていない。
ぼくは長い間、関西に住んでいる。東京に行くのは会議への出席や人と会うため、日帰りもあたかも他所の家に立ち寄っただけのようだ。
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昨日、お昼に出版業界の新しいお友達と食事をし、いろいろな話が盛り上がり、意気投合した。場所は赤坂だった。食事の後、永田町まで歩いて会議に向かった。議題は相変わらず日本文化に関するものだった。
交差点を渡って、少し坂を上ると会議場に着く。その時、偶然にも「頤和園」という中華料理店を見た。数人の中年男が店から出てきて、とてもおいしそうに食事をした様子で、なんだかいきいきしていた。しかも、かなり紳士的に見えた。皆さんもかつて築地市場で魚介類の商売をしていたのだろうか。
午後の会議を終え、東京駅から新幹線で神戸へ、人が並んでいた。よく見ると喫煙室への列だった。喫煙室は8人までしか入れないため、皆さんはちゃんと外で並んでいた。中に入って9人目だと気づき、また出てきた人もいた。アニメのキャラクターのような顔をしていた。
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新幹線で大阪駅に到着した時は、もう暗くなっていた。ホームには人が多く、出口へのエスカレーターは2列しか立てず、東京駅の喫煙室と同じように、皆さんはやっぱり並んで待っていた。慌てず、静かに待つということは、これまたとても紳士的で、周囲に優雅さと落ち着きをもたらすから、素晴らしいことだ。ブラボー。