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【空中文庫】大切な本を語り合う日

1、はじめに

2024年12月21日。
ほぼ一年ぶりとなる山梨の景色は、
前と変わらず長閑で懐かしさがありました。

山梨県上野原市にあるカフェ「logue」。
生涯福祉をテーマに、様々な人と繋がる
イベントを行っている、上野原の人々の憩いの場です。
青学の「三神アドバイザーグループ」の
活動の一環として、昨年から度々イベント事の
手伝いをさせていただいているこのカフェには、
これでもう何度目の訪問になるかわかりません。

今年二回目の訪問となるこの日行われたのは、
関わる人達の「物語」を大切にするlogueに
ぴったりのイベント「空中文庫」。
自分にとって大切な本を一冊ずつ参加者が持ち寄り、
その本との出会いや、選んだ理由、思い出と共に、
一番好きなページに栞を挟み、
そのページを紹介するというイベントでした。

今回は21日の三神アドグルの活動をまとめながら、
logueで行われた「空中文庫」の内容と、
そこで感じたことや考えたことについて
まとめていきます。

2、「空中文庫」

16時、参加者がそろってカフェのテーブルを囲み、
それぞれコーヒーやワインを片手に席に着きます。
logue経営者であり、今回の企画人である井上さんが
初めに話し出したのは、「空中文庫」の狙いについて。
語られたのは、次のようなことでした。

『私たち一人ひとりがもつ人生の物語も、
それを構成している思想や文脈も、
あまりに長くて複雑で
完全に理解しあえるものではない。
今回の「空中文庫」では、そんな個人を形作る
要素のひとつである「本」に焦点を当て、
お互いの物語を共有しあうことで、
その人の一部を知り、つながりを深めたい。』

私自身、今の自分を形作る要素として、
本が大きな割合を占めていると感じます。
小説の人物や台詞に自分を重ねたり、
エッセイや詩集に胸を打たれたり、
漫画の1コマに泣いたり笑ったり。
そうした物語との出会いの集積から
「大切な一冊」という一部を紐解くことで、
自分だけでは出会えなかった何かに
出会える気がしました。

さらに、
"monologue(独白)"や"dialogue(対話)"など
「話し」「語り」という意味合いで使われる
接尾語が由来のカフェ「logue」。
本や物語というテーマとカフェ自体の親和性も高く、
まさにぴったりの美しい企画だと感じました。

いよいよ、
参加者の物語の一部を順に触れていきます。

3、大切な一冊たち

机に並べられたのは、参加者が持ち寄った
「大切な一冊」たち。
今回は以下の本が紹介されました。

  • 「停電の夜に」 ジュンパ・ラヒリ

  • 「星の王子さま」 サン・テグジュペリ

  • 「Third Way 第3の道のつくり方」 山口絵理子

  • 「吾輩は、保護猫の官兵衛である」
    作/夢水四季 イラスト/平川可奈

  • 「森のあかちゃん」 
    文/コゼッタ・ザノッティ 
    絵/ルチア・スクデーリ

  • 「人生はもっとニャンとかなる!」
    水野敬也 長沼直樹

  • 「ぼくはいったい どこにいるんだ」
    ヨシタケシンスケ

  • 「海苔と卵と朝飯」 向田邦子

  • 「萩原朔太郎詩集」 萩原朔太郎(三好達治選)

  • 「アラベスク」 山岸涼子

並べてみれば、形や厚み、栞の位置まで人それぞれ。
ジャンルも多岐にわたり、
小説、エッセイ、絵本、詩集、漫画など
魅力的で、それでいて自分では手に取らない
ユニークな本たちが一堂に会します。

私が今回選んだのは、私の人生の方向性を決める
一つの転換点になった著者で、
MOTHERHOUSEの代表取締役兼チーフデザイナーの
山口絵理子さんの著書
「Third Way 第3の道のつくり方」です。
バングラデシュで企業を果たし、
今は日本で社会起業家といえば必ず名前が挙がる
彼女の思考法をまとめた本で、
途上国と先進国、手作りと大量生産など
相容れない二項対立に、その両方の良さを掛けた
第3の道を見出す方法を書いています。

会が始まり、
井上さんから時計回りに本を紹介しながら
その本にまつわるエピソードを語っていきます。
全員分の本とエピソードを綴りたいところですが、
あまりに多くなってしまうので割愛。
今回は紹介された本たちと、参加者の物語から
感じたいくつかのことをまとめます。

4、読み返すと感じる自身の変化

今回の「空中文庫」で感じたことの一つは、
読み手の受け取り方は時間とともに変わる
ということです。

三神先生が選ばれた
星の王子さま」を例に考えます。
この本は、その文面の読みやすさと絵柄から
一見すると子供向けの小説に思えます。
実際に私が初めてこの本を読んだのは小学生の頃。
当時の私の受け取り方は、
「ヘビが象を飲み込んでる絵が面白い」
くらいのものでした。

二度目に読んだのは高校1年生の時。
高校受験が終わり、新しい学校生活に
期待と不安を募らせていた頃の私は、
「意外と難しいこと言ってるな…」と思いました。
既に読まれた方はご存知かもしれませんが、
この本は実は少し哲学的な内容を含む小説で、
人間の核心を着いた言葉がしばしばでてくる
不思議な本です。

そして三度目に対面したのはこの「空中文庫」。
大学二年生となり、本を読む習慣もついた私が
三神先生のエピソードと共に本を開いて感じたのは、
「このかわいい本をしっかりと読み切るには、
ゆっくり時間をかける必要があるな」
ということでした。
今の私には、星の王子さまの言葉ひとつひとつが、
人間の普遍性を説いているような、
深く鋭い言葉に思えたのです。

星の王子さまが伝えんとしている哲学的な内容は、
小学生の頃の私ではわかりかねました。
しかし、高校生大学生と読み返すうちに、
それまで自分が積んだ経験や思慮と重ねることで、
少しずつ理解が深まっていきました。
そしてそこで得る気づきは、
さながら小説の伏線を回収する瞬間のように
小学生の時に読んだ時の記憶と重なり、
「本当はこんなことを伝えたかったのか…!」
と、腹落ちするのです。

星の王子さまはその最たる例ですが、
これは他のどの本にも言えることでしょう。
本は変わらずそこにあるけれど、
私たち読み手は日々変化を続けています。
初めて読んだ時に感じたことと
全く違う新たな気づきや感情の揺れを
少し経って読み返すことで見つけることができる。
それに気づかせてくれたと同時に、
大切な本を今一度読み返す機会をくれた
「空中文庫」に感謝です。

5、共有することの大切さ

今回学んだことの二つ目は、
共有することは沢山の学びを生む
ということです。

そもそも共有することには、
共有事項をよく理解し、言語化する必要があります。
大切な一冊が、自分にとって何故大切なのか。
その本との出会いや、エピソードは何なのか。
自分自身がそれを深く理解した上で、
人に伝えるために噛み砕かなければならない。
実はこれはすごく難しいことです。
しかし、この難しいプロセスを踏むからこそ
何となく感じていた感動や興味深さを
しっかりと掴むことができるようになります。

また、共有することは即ち
他者からのフィードバックを得れるということです。
自分とは背景や文脈を持つ人は、
自分の伝えたことに何を感じるのか。
それは自分と全く同じであることがないため、
非常に刺激的で新鮮なことが多いです。

伝えるプロセスで自身の理解を深め、
フィードバックで他者からの視点を得れる。
共有の本当の価値を再確認出来た
非常に学びのあるイベントでした。

6、まとめ

イベントを終え、
気になった本を各々が開く時間。
共有されたエピソードを思い起こしながら、
手元で重さを感じて読む一節一節には
なんだか温かさと力があるように思えました。

大切な一冊を改めて読み返し、
変化した今の自分だから感じる理解を得る。
また、大切な一冊を通して自分を振り返り、
人に伝えることで自身の理解を深め、
共感をもらって新しい視点や捉え方を得る。
さらに、誰かにとっての大切な一冊と物語を聞き、
新しい本や考え方と出会いながら、
その人の一部を知り、繋がる。
「空中文庫」での学びは非常に多く、
珈琲よりも濃くて暖かい時間が流れた
素敵なイベントでした。

また次のイベントが楽しみです。

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