![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162380137/rectangle_large_type_2_f1eed890f2144f52506cd1711f1897aa.jpeg?width=1200)
人生の餌<司書と図書館-前半->
中庭のささやかな植木の紅葉では少し物足りない秋を感じながら、やることもないのでベンチを後にした。そろそろ上着が欲しい季節で、去年フリーマーケットで買った古着コートは気に入ってたのだが、友人と並んで歩いた時にボロボロのコートを着ている自分が心底みすぼらしく写り、それ以来そのコートは着ないと決めていたが、寒いから新しいのを買うまでは今年もあのコートを着ようかな。などブツブツと独り言のようにそんなことを考えて歩いていたら、後ろから呼ばれる声に気づいて振り向いた。みずき先生だった。
みずき先生は学校の図書館の司書の先生で、図書館に行くと話しかけてくれる。ボクが安倍公房や梶井基次郎、三島由紀夫を読んでいた時に「もう少し広い世界を読みなさい」とよしもとばななを薦められて読んだが、先生のいう「広い世界」の定義がわからなくて、ボクからも度々話しをするようになった。
先生「ねえわたなべくん。ちょっと図書館に来ない?」
もう帰るところだったが、特に予定もないのではいと答えて先生のお尻をみながら後をついて行った。
みずき先生は見た目は派手なタイプではなく、会話のなかに独特の間があったり、あまり他人に興味がなさそうな所がボクの性格と合う所があり、教師のなかでも一番話す人だった。
図書館にはともこがいた。みずき先生がともこと話していたら、図書館の窓から中庭のベンチに座っているボクを見つけて呼びにきてくれたということだった。
「ね?ちょうどよかったでしょ?先生偉くない?」と笑顔でともこに話していた。
「どうやって連れてきたの?何て言ったの?」ともこが先生に難しい顔をして聞いていた。
ともこは華やかなタイプの女の子で、笑顔で笑い声をあげると周りの空気が少し明るくキラキラさせることができるので、なかなかの人気者だった。
みずき先生がもし同い年だったら、ボクはともこではなくみずき先生とふたりで「ともこって華があるよね」とか話していそうな感じだ。
「ただわたなべくんがひとりで退屈そうだったから誘いにいったのよ」先生は窓を閉めに行きながらうしろむきで話した。
ともこ「すごーい!レアだね!それでわたなべくんはなんで来たの?」
ボク「ちょっと来て欲しいって言われたからだよ」
ともこ「来て欲しいって言われたらいつも来るの?先生が呼んだから特別に来たの?」
ボク「そうゆうわけじゃないけど」
ともこ「意外とわたなべくんって誰でもついて行っちゃうの?」
ボク「そうゆうわけじゃないけど」
「まあいいじゃない、ちょっと座って話でもしようよ」先生が話に入ってくれなかったらともこの質問が永遠と続くんじゃないかと思った。
ともこは少し懐疑的な表情を残しながらカバンから小さなタオルを出した。
図書館の入り口からみゆきちゃんが入ってきた。
「あれ?なんでわたなべいるの?めずらしくね?」
真冬かと思うくらい厚手のコートを脱いでハンガーにかけた。
ともこがまた1段階低い懐疑的な声でみゆきちゃんに言った「なんでみゆきはわたなべくんを呼び捨てなの?」
「中学から一緒で遊んでるときからわたなべだよ」
「まじ?知らなかった!わたなべくんと仲良かったの?」驚いたような感じでともこがすかさず質問を続けた。
ボクとみゆきちゃんは中学の2年と3年が同じクラスで、それから仲が良かった。
まわりから付き合ってるという噂が出るくらい仲がよかった。
「うん。中3のとき私が好きな人にチョコあげてフラれたんだけど、ホワイトデーにわたなべは私にお返しをくれたんだよね。わたしわたなべにあげてないのに。あはは」そんなことあったっけ?ボクが昔を思い出そうと考えていたら、ともこの機嫌が悪くなるのを感じた。
ボクはともこに気を遣ってるのかな?気を遣う自分をなぜか毛嫌いした。
「なにそれ!なんかむかつくくらいいい思い出じゃん。わたなべくんはみゆきが好きだったの?」ともこは自分で落ち着こうとしているようだったが、顔はいつもよりまじめだった。
ボク「別に好きとかじゃないけど、ともだちだったし、ちょうど卒業だったからなんかあげたいなーって思ってたのかもしれない。あまり覚えてないけどね。」
ともこ「なにそれ。じゃあ付き合えばよかったじゃん」
ボク「そのときはさ、付き合って別れると友だちじゃなくなっちゃうのがなんか違う気がしたし、みゆきちゃんは好きな人いたしね」
ともこ「なんか悲しくなってきた。もうあまり聞きたくないけど、もしいまみゆきが彼氏いなかったらわたなべくんはみゆきと付き合いたいと思うの?」
ボク「どうだろうね?みゆきちゃんは友だちとして気持ちのなかでしっくりきてるというか、大切な友だちという感じだから今のままでいいと思ってるよ。」
みゆきちゃん「わたなべってわたしにはちゃん付けするけど、ともこはともこだよね。なんで?」
ともこ「なんで?」
ボク「わからない。なんとなく」
話の展開が早すぎてボクは内容を半分も理解できていなかった。
みゆきちゃんがニヤニヤしながら言った。「ともこバレバレだよね。なにこれ?告白?」
ともこが涙目で下を向いた。
先生「まあわたなべくんも座りなさいよ。」
ボクが座ると、下を向きながらともこがボクの隣に寄ってきた。
「そういえばわたなべは後輩の子と別れたって話を聞いたよ?」
ボクはそのとき付き合っていた後輩と別れたばかりで少し女の子が怖くなっていたというか、ボクのボクなりの解決をするための整理がついていない状況だった。
ボク「それで先生、話ってなんですか?」
先生「特に用事はないんだけど、私も個人的にわたなべくんと話をしてみたいと思ってたんだよね。」
ともこ「なんでわたなべくんは後輩の子と付き合ったの?」
ボク「したくてしょうがなかったからだよ」
先生「なにを?」
つづく
<番外編>
3年後のみゆきちゃん