EL 準決勝 2ndleg ローマVS.マンチェスター・ユナイテッド【結果と内容は必ずしも合致しない】
完勝 危なかったの一言に尽きるのかなと。単純にカバーニの2点がなければ3-0であやわってとこまで持ってかれてましたし、そもそもデヘア神がいなければ6-2どころか7-2とかもありえた試合でした。ただ、最終的には3-2ということで2戦合計8-5というスコアで終わりました。何とか2戦合計での勝利をものにしたユナイテッドですが、なぜここまで苦戦を強いられたのかについて今回はレビューできたらなと思います。
(WhoScored.comさんより転載)
まるでリーズ!?ローマのプレッシング
ローマの配置はこのnoteではお馴染みになっている「フォーメーションの嚙み合わせ」を意識したものに。まずはプレッシング。相手の4-2-3-1に対して4-3-3を用いることで相手の中盤をがっつり抑えながら、後方の数的優位を確保したプレッシングを行っていました。流石にリーズほど「人への基準度」(マンツーマンの度合い)は高くないものの、特に中盤は相手のキーマンであるポグバやブルーノを自由にさせないという意識が強く、基本的に受け渡しはしない約束事になっていました。
またサイドに追い込んだときに、後方のスライドが間に合っていれば、WGが相手CBにプレッシャーを掛けてそれに呼応するようにSBが相手SBに縦スライドし、ボールサイドのCBが相手のSHを見ることで「数的同数プレッシング」を敢行。これもローマのプレッシングが強力なものとなり、ユナイテッドのビルドアップの機能不全を生む要因となりました。(24',32',37'などにプレッシング成功)
相手に噛み合わせの優位性は使わせないローマのビルドアップ
プレッシングにおいてはフォーメーションの嚙み合わせの合致を生かした強烈なプレッシングをしていたわけですが、逆にローマのボール保持による前進のフェーズ「ビルドアップ」の局面ではユナイテッドが嚙み合わせを生かしたプレッシングができないように、「嚙み合わせ外し」を企図したフォーメーションの可変を行っていました。
まず低い位置(ゾーン1)でのビルドアップではGKを使うことで(他チームでは考えられないくらい)CBに幅を取らせ、SBを高い位置に置くことで(相手WGの位置を下げさせるので)、GK-CB-アンカーに広大なスペースを供給してなおかつ数的優位を確保することができていました。フォンセカ・ローマを毎試合見ていないので何とも言えませんが、このGKを使ってCBを大きく広げることで3バックを形成し、後方の数的優位を確保するというのはフォンセカの常套手段で去年僕が見た試合のローマは結構これを頻繫に行っていました。
またキーパーが使えないエリア中盤(ゾーン2)でのビルドアップでは、アンカーのマンチーニ(途中からダルボエ)が味方CBの間に落ちて3バックを形成するいわゆる「サリーダデバロン」を行うことで、これまた相手のSHを混乱させ、数的優位をつくることで両CBの「時間」を確保し、安定した「崩し」のフェーズへの移行につなげている。
この可変に対して当然ユナイテッドもアジャストしてくるわけで、ユナイテッドが相手の3-4-3の相手によく行う4-2-1-3のようなプレスで対応してきます(ブルーノの役回りは後半になるまで曖昧でしたが、SHの縦スライドによって3バック化した相手のCBを抑えることは前半からできていました)。しかしユナイテッドのこの対応を予期していたのかというぐらいにローマも用意周到で、相手のSBがWBに縦スライドすることでできる相手のSB裏、そして手薄になる相手のDFラインをジェコへのハイボールで狙い撃ちにするという手を打ってきました。つまりローマは後方の数的優位を確保することで地上でのビルドアップを前提としながら、最終手段としてのジェコの空中戦という逃げ道も用意していたということでした。またスモーリングの交代も怪我の功名みたいなところがあって、お世辞にもビルドアップが得意とは言えないスモーリングからCBをマンチーニ、アンカーにダルボエを配置したことで相手のプレッシングの機能をさらに弱めることができました。
(WhoScored.comさんより転載)
上の図は両チームの"Loss of possesion"つまりボールを失った場所と回数を表しているが、ローマが自陣でボールを失った回数が4回でしかもほぼエリア中盤地点であるのに対し、ユナイテッドが自陣でボールを失ったのが12回で(自陣ゴールに近い)ゾーン1で4回も奪われている。このデータからユナイテッドがローマのプレッシングに苦しみ、一方のローマはユナイテッドのプレッシングを剥がしていたことがわかる。
(WhoScored.comさんより転載)
この図は"Action zones"なので恐らくですが選手やボールがどのエリアにあったかというデータですが、これを見てもローマの自陣は25%であるのに対し、ユナイテッドの自陣エリアは32%となっており、もちろんユナイテッドが大量リードしていたという状況もありますが、ユナイテッドは相手のプレッシング、相手のビルドアップの機能によって自陣でのプレーが割合として増えていったことがわかります。
まとめ:それでも2戦合計で負けなかったユナイテッド
これだけローマに試合を掌握されたユナイテッドでしたが、試合結果は3-2と接戦を演じることに。そこではユナイテッドの自力を見た気がします。正直守備に関しては撤退守備セットプレーも含めて完全崩壊していて、デヘア様様だったとしか言いようがないですが、数は少ないながらも成功したプレッシングから20'のカバーニのシュートチャンスを生んだり、ポジティブトランジションとファンデベークの動き出しによって一瞬空いたブルーノにショーから縦パスが入り、フレッジへのレイオフでカバーニの1点目を演出したりするなど、要所要所では相手をいなせていたのがこの試合が大崩れしなかった要因なのかなと個人的には思います。これは褒め言葉なのですが、内容が悪くてもなぜか勝ててしまう「理不尽チーム」の典型がマドリーなのですが、今のユナイテッドはそれに匹敵するぐらい「理不尽度」が増しているのではないかと思います。もちろんそこには偶然性や個の力も孕んでいますが、「理不尽に勝てるチーム」の多くは今日のユナイテッドのように内容が悪いなりに自分たちのかたちからチャンスをつくることのできる洗練されたプレーモデルを持っているからだと思っています。長くなりましたが、つまりをいうとスールシャール・ユナイテッドの設計図の完成度が増してきているということです。
これからアーセナル戦を見たいと思いますが、エメリのビジャレアルは相当に曲者だと思います。苦しくなったときに以上のような完成度の高さ、「理不尽さ」を見せれるかどうかが、今シーズンの集大成としてEL優勝を飾るためのカギになると思っています。これだけユナイテッド戦に力を注いでくれたフォンセカやローマの選手たちのためにもぜひ優勝してほしいです!(スールシャールさん、カップ戦は監督のエゴとか言わないで。)それでは。
タイトル画像の引用元:LovelyLeftFoot "Anfield (Europa League v Zenit)"
なおこの画像はCC BY 2.0の下で利用されています。
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