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圧巻のペップとポチェッティーノの前チームと現チームでの状況の違いによるジレンマ(CL Round4 PSGVS.MCI)

いやー素晴らしい試合でした。シティはクラブ史上初の決勝進出が近づく勝利でしたね。今日もゆるーく、短めにこの試合をレビューしていきたいと思っておりましたが、書き終えてみると5000文字弱。自分の構成力のなさには飽き飽きしますが、どうしてもこういうハイレベルな試合は書きたいことがたくさんできてしまい、ついつい長めに書いてしまうということを皆様にはご了承いただく存じます。(※正しくはバッカ―→バッケルで、両チームのエンドが逆でした。すみません。)

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PSGの要となったヴェラッティの存在

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 上の2つの図のようにパリはDF4枚と技術力のあるダブルボランチ(パレデスはCB間に落ちることもあった)がビルドアップ隊となり、出し手に「時間」を供給しながら、相手の4-1-4-1のアンカー脇にできるスペースにヴェラッティと3トップのうちの1人が入ることで数的優位を作り、前進を試みていました。基本的には2つ目の図のように同サイドのWGが幅を取り、逆サイドのWGもしくはムバッペがヴェラッティとともに「ロドリ脇」に位置することでビルドアップの出口を確保していき、ビルトアップを成功させていました。強力なカウンターのイメージが大きかったこの試合ですが、実は15'のマルキーニョスの得点を演出したコーナーキックも自陣からのビルドアップ、そして定位置攻撃による崩しから生まれたものでした。

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 上の表はSofaScoreさんのデータをもとに作ったものになります。もちろんゲイェ退場や(リードを得て折り返した後半という)試合の状況による影響も考慮しなければなりませんが、この表を見てもパリは前半の方がよりボールを持つ機会が多く、パスをうまくつなぐことで、試合をある程度コントロールしていたことがわかります。ただ、パリのボール保持の局面が安定しなくなったのには、シティのボール保持(46'〜)、ボール非保持(25'頃〜)による修正も起因しており、それがシティペースの後半を生む要因ともなりました。

シティのボール非保持面⇒プレッシングの修正(25'頃〜)

 4-1-4-1(または4-3-3)によるプレッシングが機能せず、相手のセットプレーからの得点により流れももっていかれたシティは、流れを取り戻し、得点をとるためにプレッシングの修正を行いました。

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先ほどの2つ目の図をパリの立ち位置はそのままにシティの配置を修正後の4-4-2バージョンにしたものが上の図になります。ちょっと図がごちゃごちゃして汚くなってしまいましたが、この修正には2つの効果がありました。1つ目が中盤をダブルボランチにすることで、上述したパリの「ロドリ脇」の利用を防ぐことで、もう1つがパスの出し所の「時間」の規制することです。1つ目は読んで字のごとく1アンカーからダブルボランチへの変化で「ロドリ脇」のスペースを消すことだということは分かると思います。一方の出し所の「時間」の規制というのはつまり、相手CBに対してそれまではデブライネ1枚だったのに対し、ベルナルドの列を完全に上げて2枚にすることで、出し手のボールを顔上げる余裕をなくし(これはひいては相手の受け手が高い位置を取ることを防ぐ)、プレッシングの強度を上げるということです。結局プレッシングにおいて重要なのはボールを持っている選手への圧力の度合いというわけです。また、これはバンリーについての記事でも書きましたが、4-4-2は4-1-4-1よりも距離感が取りやすいため、そういった全体的なコンパクトネスの上昇もプレッシングがうまくいった要因と言えるかもしれません。何かいいとこばかりに見えますが、アンカーがいなくなったということは仮に2-3列目の間の選手にボールが入ったときは4-1-4-1に比べピンチになりやすく、41'のパリのスローインからのチャンス(最終的にネイマールがフロレンツィに転ばされたやつ)も4-4-2の2-3列目の隙間をうまく使われたことによるチャンスでした。逆に32'やパリのそのチャンス直後の42'(フォーデンのシュート)のチャンスはそのプレッシングがまさにはまったというシーンでしたが…

シティのボール保持の修正=5レーンの明確化(後半〜)

 プレッシングが機能すれば、相手陣内でのプレーも増え、当然ボール保持のフェーズも増えることとなります。そうなったときに得点するために重要なのが「崩し」つまり定位置攻撃です。25'からのプレッシングの修正によりペースをつかみかけたにもかかわらず、前半のシュートが4(枠内2)本に終わり、後半のシュートが7(枠内4)と差がついたのにはこの面での修正が影響しているといえます。ちなみにパリのボール非保持の配置は基本的にネイマールが一列上がりヴェラッティが左に張り出すことによる4-4-1-1または4-4-2となります。

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 上の図はシティの相手陣内侵入後のボール保持のかたちのイメージを表したものであるが、このかたちは(リーグカップ決勝もこの配置であったことなども踏まえると、)カップ戦準決勝でなおかつアウェーで守備的に振舞わなければいけない状況では悪くない選択肢であるといえますが、早い時間帯に失点し、更なる失点の恐れがあるため、ペースをつかみなおして相手を「崩さなければいけなくなった」この試合では少々問題点がありました。それはタイトルにもある5レーンを有効に使えないということでした。図を見ると、最初の時点では4人が立っており、「状況に応じて」ギュンドアンやカンセロが加わることで初めて相手の2-3列目の間の5レーンに対し選手が1人ずつ割り当てられる仕組みになっています。

 この「状況に応じて」という言葉は曖昧ですが、実際私も見ていてこれに関しての何かの決まり事があるかどうかは分かりませんでした。恐らくですが、例えば相手のマーカーの位置だったり、押し込み具合などのリスク管理の要因が考えられます。ただ、実際問題として、カンセロもギュンドアンも実際に相手の2-3列目の間に入ることは限られ、明らかに攻撃参加を自重していたといえます。

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 そうなったときに相手のライン間の5レーンに対して4人しか配置されないこととなりますが、上述した問題点というのがまさにこのことです。これによって解説の安永さんもおっしゃられていましたが、相手のCBの負担が少なかったり、仮に上の図のようにベルナルドが中央のレーンに入ったとすると、相手の逆サイドの選手(ここではヴェラッティやバッケル)がスライドする必要がなくなったり、逆に相手は極端にスライドすることで相手のボールサイドでの前進を容易に防ぐことができてしまうのです。要するに、相手への脅威が減ることによって相手が守りやすくなるということです。もちろんパリの選手たちの凄まじい攻守の切り替えや集中したディフェンスというのも光りましたが、シティのボール保持がうまくいかなかったのにはシティにも問題があったといえます。

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 しかし後半に入り、左SBの横幅化を解禁することで「左肩上がりの3-4-3の形成」を行い、フォーデンがハーフスペースから中央にかけてのレーンに侵入。もちろんその中での流動的なポジションチェンジもありますが、これによって相手の2-3列目間の5レーンにしっかり5人が配置されるかたちとなり、相手のブロックをしっかり中央にとどめることでサイドが空き、そのブロックを縦横に振り続けることで、中央にも穴を作るというボール保持の好循環にシティは入っていきます。確かにポジションを固定化させることは相手の守備の慣れにもつながり効果的な攻めを生みませんが、この試合のように5レーンに立たせる選手をある程度明確にしたうえで、そのオーガナイズの中でポジションチェンジをさせることによって、「規律ある混沌」を生むことができ、良い攻めにつながるのではないかと改めて実感しました。

 この2つの修正によって流れを掴んだシティは立て続けに2得点を取り、さらにゲイェの退場をも誘い、試合は終了となります。シティの2得点はどちらもセットプレー絡みですが、実は1点目はゾーン2でのプレッシングからボールを奪取したことによって生まれたコーナーキックによる得点であり、2得点目を生んだフリーキックまでの流れは圧巻で、相手GKからの繋ぎをプレッシングによって回収し、その後のボール保持で相手のボランチ脇を利用することで得点につながるFKを得ていました。シティの選手たちのメンタルや戦術理解度、そしてペップをはじめとしたシティのコーチ陣にはいつも驚かされます。月並みな表現ですが、前半と後半とではまるで別のチームでした。

スペシャルであるということとポチェッティーノのジレンマ

 こっからは私の超個人的な見解に基づく、超個人的な感想です。完全に蛇足なので、読み飛ばしていただいて構いません(笑)。

 この試合で前後半ともに光っていたのが、ネイマール、ムバッペ、ディ・マリアらパリの前線の選手の個のレベルの高さでしょう。シティの選手もレベルの高い選手がそろっていますが、ロナウド&メッシ後にサッカー界を引っ張るであろうネイマールやムバッペはもはや別格の域です。ただそういったスペシャルな選手はいずれ監督を超える存在となり、やがてチームでは「代えの利かない選手」から「代えてはいけない選手」になってしまいます。今日の試合でもそのような状況は見られ、ゲイェが77'に退場した後にポチェッティーノが下した決断はディ・マリアをダニーロ・ペレイラと交代して4-3-2(1-1)のフォーメーションにすることでした。解説の安永さんもおっしゃられていましたが、通常であればFWの選手を変えて4-4-1にするところですが、ネイマール、ムバッペは最後までピッチに残りました。

 同様の例で、バルセロナの「メッシ・スアレス問題」がありましたね。このコンビもチームで絶対的な存在となり、昨シーズンのエスパニョール戦で同様の状況で当時の監督のバルベルデはメッシとスアレスを残して4-3-2のフォーメーションで戦った結果、同点弾を浴び、バルベルデやバルセロナは批判を受けたことは記憶に新しいと思います。バルセロナは結局、彼らの「守備しない問題」も含めてスアレスを放出することでその問題を解消しました。

 別に私はネイマールやムバッペ、ポチェッティーノを批判したいわけではないですし、むしろネイマールに関してはサントス時代から好きな選手でそれは今も変わりません。ただ私が感じるのは、今のバルセロナやユヴェントス、そしてパリのようにスペシャルな選手がいるチームはそれだけで違いを作り出せますが、一方でチームはその選手に合わせたかたちを取り続けなければならず、試合中での修正を含めてチームスタイルが固定的なものとなってしまうのも受け止めなければならないということです。ここにポチェッティーノのジレンマがあり、それはこの試合でも見受けられました。

 トッテナム時代のポチェッティーノであればシティが修正してきた後半に自チームがうまくいかなくなった時点で、何かしらの施しは加えていたのではないかなと個人的には思っています。結果論ですが、それがなかったことによってこの試合は敗戦という結果になったのかもしれません。

 ただ、ポチェッティーノの手腕には疑いようはなく、彼がこのようなチームを率いたときにどのような結果に導くのかということは2ndleg含めて期待してしまいます。それと同時にネイマールやムバッペがメッシやロナウドと明確な違いがあり、それは彼らが「チームのために走る」ということが出来る選手たちであるということです。だからこそ、これから彼らがどのような成績を収めるのか、新たな「個」のチームのかたちを模索す旅はまだまだ続きそうです。


タイトル画像の引用元1: Дмитрий Голубович"File:Mauricio Pochettino 2016 (cropped).jpg"

タイトル画像の引用元2:ФК ШАХТЕР"File:Pep 2017 (cropped).jpg" by ФК ШАХТЕР 

なおタイトル画像はCC BY-SA 3.0の下に改変を行い作成したものであり、当画像も同CC BY-SA 3.0の下に第三者が利用することを許可する。

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