【フリー台本:6人用】『悪の組織の愉快な会議』
【登場人物】()の中は台本上の表記です。
魔王(魔王)
女幹部(女幹部)
モブ戦闘員統括部長(部長)
悪堕ちした正義の味方(元正義)
四天王①(四天王①)
四天王②(四天王②)
【悪の組織の愉快な会議】
魔王:えー、ただいまより、今後の組織の方針について、会議を行いたいと思う。ではまず、出席者の確認から。出席者はそれぞれ、自分の役職を述べて、簡単な自己紹介をするように。
女幹部:はぁい、魔王様。では私から。私は見ての通りの女幹部。魔王様の隣に立って、彼の手となり足となり働くことがお仕事ですわ。あとは、時々正義の味方のヒロインと戦ったり、主人公の男の子を誘惑したりする仕事をしているかしら。……最近の悩みは、このぴっちぴちのレザースーツが本当は魔王様の趣味だと知って、魔王様の呼び方を「スケベ大魔王」に変えようかと思っていることですわ。以上。
四天王①:あれ魔王様の趣味だったんだ……(ひそひそ)
四天王②:レザースーツは時代が古くない……?(ひそひそ)
魔王:(咳払い)……えー、次!
部長:はい。では私が。私は、戦闘員統括部にて、部長の役職に就いております。毎回ヒーローたちに一網打尽にされている、あの戦闘員たちの上司のようなものですな。彼らへ出動命令を出したり、彼らのシフト管理をすることが主な仕事です。最近は、戦闘員たちが「成長が見込めないので転職します」とか「組織の将来性が不安です」とか言い残して、どんどんと組織を辞めていくことが悩みです。どうぞよろしくお願いします。
女幹部:あらぁ、なーんか数が減ってると思ったら、そういうことだったの。
部長:ええ。若手ばかり減っていくおかげで、戦闘員の平均年齢も上がっていくばかりですね。
魔王:ッスー……えー、次!
四天王①:はい、我々が四天王その1と
四天王②:四天王その2でーす。どうぞよろしく!
部長:あれ、四天王って、たしか四人居ませんでしたっけ。
四天王①:そりゃあ、四天王ってくらいですから。四人いましたよ。
四天王②:でも次々にいなくなっちゃいまして。
四天王①:ひとりは、ある日突然連絡がつかなくなって。その数日後に、退職エージェントから連絡が来て
四天王②:もうひとりも、ある日突然連絡がつかなくなって。数日後にそいつのロッカーを開けてみたら、そこにはコスチュームと退職届が残されていた、といった具合です。
四天王①:しかも奴らは、四天王の中でも最強クラスのふたり!
四天王②:残されたのは一番弱い我々ふたり!
四天王①:四天王として最強を名乗っていたのも、もう昔のこと!
四天王②:四天王は現状、すでに!
四天王①②:『壊滅状態でーす!』
魔王:堂々と胸張って言うことではないわ!……ええい、今それぞれが言っていた通り、我が組織は若くて優秀な人材が次々に組織を離れており、このままでは壊滅してしまう可能性すらある!
四天王①:女幹部さんもこの前転職サイト見てましたもんね
女幹部:ちょっと!ホントのこと言わないでよ!
魔王:ええっ!嘘でしょ幹部ちゃん!この前一緒に創立10周年のお祝いしようって約束したじゃん!
女幹部:うげ、覚えてやがった。……ま、まあまあ、その話は後にするとして。魔王様、そこに立っているお方は一体誰ですの?どこかでお見かけしたような気もするのですけれど……。
四天王②:同じく!どこかで見たような気がするんだけど……紹介をお願いしまーす!
魔王:ああ、そうだ。彼を紹介せねばならんのだった。では君、自己紹介を頼むよ。
元正義:ふっふっふ……はーっはっはっは!!よくぞ聞いてくれた!!我こそは、正義の名を騙る忌まわしき集団から抜け出し、真の正義を追い求め、この地へ足を踏み入れし者!!人呼んで——
四天王②:あーっ!思い出した!たしか2年前くらいに活躍してた、戦隊ヒーローの緑の人だー!
四天王①:ああ、言われてみれば確かに!なんか過去の話の掘り下げも中途半端で、劇場版での活躍もあんまりなかった、残念な緑の人か!
元正義:ウワアアやめろ!違う!俺を緑の人と呼ぶな!あと残念って言うな!
女幹部:ピンクとレッドの恋愛に絡んでいくも、結局「いい人」止まりで終わってしまって、あんまり大きな印象も残らなかった、あの緑の人ね
元正義:いい人で何が悪いって言うんだ!緑って大体爽やかな良い人ポジションだろ!
部長:それにしたって印象が薄すぎやしませんか?
魔王:ああ、もう、ストップ、ストーップ!寄ってたかって新人をいじめるんじゃない!
四天王①:「人をいじめちゃいけません」ってセリフ、魔王から聞くことあるんだ……
魔王:ともかく!君たちの評価はどうであれ、彼は貴重な人材なんだ。「正義の味方から悪の組織への寝返り」というインパクトの強い経歴を持ち、戦闘経験も豊富、しかも若手とくれば、彼の組織加入に文句はつけられないだろう?
四天王②:うーん、まあ。
部長:それは……確かに?
魔王:そして、今日彼に来てもらった理由はもうひとつある。それは、元正義の味方の、悪の組織に対する客観的な意見を述べてもらうためだ。
女幹部:客観的な意見、ですか
魔王:ああ、そうだ。悪の組織内部での意見だけでは、偏りが生まれてしまうからな。これもいい機会だと思い、正義側の意見も取り入れてみることにしたのだよ。で、どうかね。君から見て我々の組織の印象は。
元正義:えっ、いきなり本題ですか?もっとこう、俺がどうして悪の組織に寝返ったのか、とか、そういうエピソードトークみたいなのは必要ない感じ?
女幹部:ええ
四天王①:うん
四天王②:全然
部長:まったく
元正義:酷くない!?鬼!悪魔!
部長:まあ、悪の組織ですから
元正義:くそぉ!そうだった!
魔王:話がすすまないから、本題いってもらっちゃっても良い?
元正義:はいはい分かりましたよ!やれば良いんでしょ、やれば!……えー、今まで聞いていた話だと、大きな問題としては、悪の組織内の人材が、急激に減っていることが挙げられるかと思います。それって、何が問題で起こっているんだと思います?
女幹部:上司のセクハラ!
四天王①:劣悪な職場環境!
四天王②:厳しすぎる上下関係!
部長:まったくゼロと言っていい福利厚生!
元正義:なんてブラックな職場だ……
魔王:そ、そこは仕方なかろう!我々は悪の組織なんだぞ!
元正義:それですよ魔王様!その考え方がすでに古いのです!
魔王:か、考えが古い……だと!?
元正義:いくら悪の組織と言っても、その内部まで悪に染まっている必要性はどこにあるんです?仮にも組織として活動するのであれば、その内部は人が働きやすい環境であるべきだと思うのですが。
魔王:ぐっ、まっとうな意見だ……
女幹部:ここに来てようやく正義の味方っぽいこと言い出したわね
四天王②:やっとね!
元正義:うるさいぞ外野!……ということなので、まずは働きやすい環境を作るべく、一度組織の根本的なところから見直していこうと思う。ではまず四天王その1!悪の組織に必要なものはなんだと思う!
四天王①:ええ!?……ええと、やっぱり、お金ですかね
元正義:確かに、それもひとつの必要な要素だ。だがそれだけではない!悪の組織にとって、必要なものは5つある。ひとつは、軸となる思想や考え。ふたつ目は、人材。みっつめは、資金。よっつめは、組織そのものの権力や権威。そして最後に、外部からの承認だ。ではひとつめから確認しよう。魔王様、この悪の組織が軸としている思想は、一体なんですか?
魔王:それは〜ええと〜……せ、世界征服とか……?
四天王②:ふわっふわだねぇ!
部長:私も長いことここに勤めていますが、初耳に近いですね。
元正義:それじゃあダメです!固い信念を貫き通す者にこそ、周囲の人々は憧れて、その在り方に惹かれて、その人に着いていこうと思うのです!そんなふわふわな信念では、部下が自然に離れていくのも当然のことです!魔王様にはもっと何か、貫き通したい信念は無いのですか!
魔王:貫き通したい信念……そんなものは……。いや。……な、なんでもいいのか。
元正義:ええ、もちろん。なんでもいいですとも。他人から見てどれだけくだらないことでも、本人にとって絶対に譲れない何かであるならば、それは立派な信念と呼べるのですから。
魔王:だったら……だったら私は…………!私は!この世の全ての女の子に、ぴっちぴちのレザースーツを着てもらいたい!!
四天王①②:『ただの性癖だー!?!?』
魔王:ああ、そうだ性癖だとも!私は、丸みを帯びた女性の全身を包み込むレザースーツの、その美しさと色気がどうしようもなく好きだ!体型などは関係ない!誰が着ていようともその黒革の艶めきは失われることはないのだ!森羅万象全ての存在が、それを身につけることにより色気と美しさを手に入れることができる!この素晴らしい衣服の魅力を常に感じていたい。全世界に広めたい。誰に何を言われようとも、これが私の、誰にも譲れないただひとつの信念なのだぁーッ!
元正義:そうです、それです魔王様!その熱い信念こそが、今まさにこの組織に必要なものなのです!——おや、部長?どうしました?
部長:……魔王様……私、ずっと魔王様にお伝えしたいことがありました。それを、今この場で、あなたにお伝えしようと思います。
魔王:……ふむ、いいだろう。申してみよ、戦闘員統括部長よ。
部長:魔王様、実は私も……私もレザースーツが大好きです!!!!
四天王①②:『お前もかよ!?』
部長:魔王様の今のお言葉、心が震えるほどに、大変に感動しました。そして、今の言葉を聞いて、この場で決意しました。レザースーツに対し、これだけの熱い想いをお持ちの魔王様に、これからずっと着いていこう、と!
魔王:統括部長……!
部長:私は今後何があろうとも、魔王様のその信念ある限り、この組織に身を捧げる所存です!
魔王:そ、それはつまり、この世をレザースーツの楽園にすべく、今後も私と一緒に、悪の組織として活動してくれるということか……?
部長:もちろんですとも!
魔王:と、統括部長……!(泣)
元正義:ふっ、そうでしょうとも。揺るぎない信念がある限り、それに付き従う人間は自然と増えていくものです。今でこそ魔王の信念に同調しているのは統括部長だけですが、その数は次第に増え続け、いつかは金持ちのスポンサーだって味方についてくれるかもしれませんよ。
四天王①:……つまり、魔王の様の揺るぎない信念があれば
四天王②:人材の問題も資金の問題も、どんどん解決していっちゃうって……コト!?
元正義:まあ、うまくいけばそうなりますね。そして金と人材が増えたのならば、職場環境を改善する余裕もおそらくは生まれることでしょう。推測ですがね。
四天王①:それってめちゃくちゃいい感じでは?
四天王②:それってめちゃくちゃいい感じだね?
四天王①②:『ってことで、魔王様、俺たちもついていきます!』
魔王:お前たち……!まさかお前たちもレザースーツが……!?
四天王①:いやレザースーツは別にどうでもいいです。まあ、少なくとも今よりは働きやすくなりそうだし。もう少し手伝ってあげようかなと。
四天王②:内容はともかく、魔王様にあんな熱い想いがあったなんて知らなかったしね。
魔王:お前たち……!
元正義:さあ魔王様。あなたが揺るぎない信念を言葉にしたおかげで、部下との絆も無事に修復されました。今日はこの組織の、新しい門出の日と言っても過言ではありません。この瞬間、魔王様の揺るぎない信念とともに、レザースーツの楽園を実現するため、我々は新しく生まれ変わったのですから!
魔王:嗚呼……ああ!そうだな!ありがとう緑の人!
元正義:緑の人って言うんじゃない!
魔王:では皆のもの、一時はどうなることかと思ったこの組織だが、今日から改めて、よろしく頼む!レザースーツの楽園のために、日々悪逆の限りを尽くそうではないか!
部長:魔王様、バンザーイ!
魔王・四天王①②・元正義:ばんざーい!!
部長:バンザーイ!
魔王・四天王①②・元正義:ばんざーい!!
(以後、女幹部のセリフが終わるまでボリュームを落として繰り返す)
女幹部:うん、転職しよ。
終
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