アフターコロナの飲食店(過去を捨て、これからの店について考えよう)
前回、「理念、目標、戦略」といってますが、私はコンサルではなく、ただの料理屋の三代目店主ですので、理路整然と店舗運営について、皆様に伝えることはできません。
ただ、80年余り、店を維持している理由はおぼろげながら理解しています。それは、常に世の中の状況を客観的に理解し、その時々において、どのように店を運営したらよいかを常に考えて、行動してきたからだと思います。
京都の料理屋としては創業80年といっても、気恥ずかしいほどです。でも、昭和12年創業してから、現在に至るまで、その時代において、商売の危機はいくつも乗り越えてきたことは確かです。
初代は何故か、映画俳優の嵐勘十郎さんや横溝映画監督にかわいがっていただき、商売をさせていただいてたようです。嵐勘十郎さんのご自宅は私の店のまだ西にあり、市内での仕事を終えると、私の店の前を通って、ご帰宅されていたようで、その折に、店に立ち寄り、食べたい調理を注文して、帰られる。そしてそのご注文をお届けしていたようです。
二代目 先代は昭和の高度成長期に一筋北に別館料亭を構え、地域住民の冠婚葬祭、西陣の旦那衆の集まり、地域の各自治会の団体の宴会などを中心にした仕事をしていました。また、店の近くに立石電機、現在のOMURONの本社工場があり、社員食堂のような仕事もしたと聞いています。
昭和40年代に入り、京都の料理屋はこぞって、〇〇弁当という商品を提供し始めました。その当時は「アンノン族」とか言う女性が京都に旅行に来るようになり、その観光客に対応した弁当を提供したのです。当店は吉田兼好の庵が近くにあったことから、「つれづれ弁当」というお料理のセットを提供し始め、観光雑誌にもよく掲載され、今でも名物料理としてご提供させていただいております。
このような経緯で私まで店を維持してきているわけですが、度重なる困難に遭遇してきたときに、どのように対処したかというと、簡単にいうと、「常に基本に立ち返り、ニーズを探り、求められている商品を提案してきた」ということでしょうか。
先代はセミナーなども積極的に受けていました。とりわけ、商業界という出版社が主催しているセミナーは熱心でした。この商業界の創始者 倉本長治さんが、昭和30年代から、流通業者に商売の心を解いていました。「店はお客様のためにある」という理念をわかりやすく説いていたようです。私も母につれられ、小学校時代に何故か、セミナーの開催されている箱根に行った記憶があります。倉本先生から「よく来たな」と褒められたことを覚えています。
私は頑固で特にそのセミナーに行くこともなかったのですが、先代が買ってきた本は読んでいました。世の中をなめていたのか、商売をなめていたのかわかりませんが、私はただひたすら「店はお客様のためにある」ということを追い求めて、今に至ってます。高度成長期にはこれからはチェーン展開しないと生き残れないとかいうセミナーの講師もいました。でも、私はこの「店はお客様のためにある」でも我が家のためにもある。適切なスタンスで良質の商品を適正な価格で提供するために、どのようにすればいいのか?を常に考えてました。幸か不幸か多店化することもなく、今に至ってます。時代遅れかもしれませんが、毎日のように中央市場に買い出しに行き、良い食材を安く買い、そして喜んでもらえるお客様に提供する。これが飲食店主の務めだと思っていますし、飲食店の店主の基本だと思っています。
この基本、根本というのが、失われては、人は幸せな人生を過ごすことができないと思っています。最近、テイクアウトやデリバリーが飲食店の生きる道のように言われてますが、それは何故でしょうか?人は今までの生活で養われた食生活の習慣を放棄することはなかなかできません。でも、外出を自粛され、飲食店舗で食べたいと思っても、行くことができないからですね。
飲食店側は来店客が極端に減少したので、しかたなくテイクアウトやデリバリーをはじめるわけですが、その仕事に飲食店の信念とかお客様に美味しいものを召し上がっていただく気持ちとかがあるのでしょうか?
そのことを的確に表現している商品を提供しているお店は一食5000円の商品でも、そのニーズを的確にとらえられているから、支持をされているようです。ただ、売り上げを上げないといけないからとか、自分勝手な動機が主な要因ではじめても、きっと長くは続かないでしょう。
では、店はどうなのでしょうか?アフターコロナの飲食店のあり方として、どのような店のあり方が良いのかをもう一度考え直す時かもしれません。
多人数を収容できる店のレイアウトが今後必要なのか?この立地でコロナ以前のお客様は来店するのか?どんな商品を提供するべきなのか?今一度自店のあり方を1から再考し、アフターコロナの飲食店として生き残れるように再構築しないと、「鍋に入って、沸騰して死んでしまう蛙」になるのではないかと思っています。
そのための「理念、目標、戦略」たど思うのです。そんなたいそうに考える必要はありませんが、もし仮に自分がお客さんとしたら、この店に入ってくるかどうかを素直に考えればいいと思います。