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レザムルーズと恋人たち

高校生での中華街バーデビューから始まり、バーを丸ごと愛してきたが、自分はかつて一度もバーのマスターに恋を語ったことはない。が、人の恋バナは好きだ。

この本は、「恋」「お酒」「音楽」というバーにおける3大テーマを縦糸に、緻密なディティールが横糸としてきっちり織り込まれ、それゆえに、軽い読み心地なのにすべてが映像化され、見事に追体験させられる。

渋谷の街を通り過ぎる四季、それに合わせたマスターのおもてなしの気持ち、人物に至っては、ファッションから始まって、表情・雰囲気・職業・カウンターの着席位置、そしてオーダーの仕方などが細かく描写され、まるでバーで隣に居合わせたようだ。

音楽やお酒に関しては、さすがその蘊蓄が楽しいが、酒類・グラスなどの提供の仕方で、これまたまるで目の前でそのお酒をサーブされているような臨場感だ。

さて多くの解説者が、この本の楽しさを語る中で、わたしは数字にこだわり分析をしてみた。そのバランスの良さが、この本を人気本にしている秘密なのだと悟った。


全21話。恋の語り部は、22歳の女優から70歳過ぎのおしゃれな紳士まで。年代は30代男性が36%、次に20代 40代の女性がともに18%となっていて、実にリアルな分布である。語られる恋の種類は、ハッピーエンド 6話、いわゆる不倫 5話、不倫とは言えない既婚者の恋 4話、成就しない恋 3 話、亡くなってしまった恋人との恋の思い出 1話、街で見かけた素敵なカップルの恋 1話、その他 1話 という構成で、練りこまれたそれぞれのストーリーがこれだけのバリエーションで、季節の移ろいと共に展開されるので、ページをめくる手が止まらないのは当然だ。

次に、語り部が座るカウンターの位置だ。トップは真ん中8名、奥の端4名、入り口の端2名、奥から二つ目1名、不明6名。「不明」はおそらくマスターの前の「真ん中」だと思うが。中にはマスターのお勧めによる着席位置も入っているが、バー好きの方は、この着席位置でまた一つ、筆者の人物描写の方法としてにやりとしているのではないだろうか。

最後の数字は、3。2003年物のブルゴーニュワイン レザムルーズだ。筆者の、「恋人たち」を愛し愛でたい気持ちが、このワインに凝縮しているのかしら。さあ、ブルゴーニュワインを片手に、レザムルーズの登場回だけを拾ってまた楽しもう。

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