夜の王
夜の王
彼は生まれた時はまだ鳥だった。
水鳥で
さして大きくもない池で小さな魚を啄んでいたのだ。
だがある時長く暑い日が続き池は枯れていき彼の仲間達も他の多くの生き物達も池を捨てて何処かに飛んでいってしまった。
彼もそうしたかったが彼には生まれたときから羽が無かったのだ。
だから泥のようになった池に残るしかなく泥の中をほじくり返し虫を食べて食べる物がとうとうなくなるとやはりこの池から逃げ出すことのできなかった色々な生き物や生き物の残骸と身体を繋ぎあわせる事で残った命をもらいそれでなんとか生き延びていた。
身体はもはや元の鳥というカタチとは遠くかけ離れたとても奇妙な生き物になっていた。
でも
やがて泥も乾き繋ぐための身体もなくなり皮や肉も溶けてゆっくりゆっくりと死へと向かい冷え切った夜のなかに身体を横たえその時を待っていた。
やがてとても大きな月が夜を照らしていたときにたまたま通りかかった土地神がやっとその異様な鳥の残骸に気がついたのだ。
神は迷う事なく彼を祝福し新たなあるべき命を与える事にした。
それは結果として彼が神への供物そのものとなっていたからだ。
彼は多くの生き物の成り果てた集合体でありそれは大きな諦めと悔恨そのものであり同時にとてもとても強い願いであり祈りでもあったのだ。
彼は自分も知らぬうちに神と通ずる存在になっていたのだ。
神は彼を供物として受け入れて新たな命と使命を与えた。
他のより強い神が介入できない夜の間だけだが彼は乾いた池の底から立ち上がり月の光を浴びて再生するのだ。
彼は君臨する。
夜の王として
誰も居なくなった枯れ果てた池を統治する王となったのだ。
長い長い時間をこれからここで過ごすことになるだろう。
それでも新しい命は彼と彼を構成するかつての生き物達にとっては永遠へと希望を紡ぐ糸となることだけは間違いないのだ。
いずれまたこの領地に新たな生命が溢れん事を。
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