首都圏に存在するタワマン約190棟の耐震性能の実数値一覧
1.データについて
集計データ件数ですが、2003年~2023年竣工したタワマンが対象で、
首都圏のタワマン188件 + 大阪のDFS制振タワマン2件 = 190件となります。
東京カンテイのタワマンストック数の記事から推測すると
首都圏の2003年~2023年竣工した全体タワマン数は540棟くらいなので、網羅率としては、35%くらいとなります。
耐震性能数値データの取得元としては、会誌 MENSHIN、会誌 コンクリート工学、過去入手した性能評価機関の性能評価シート、新築のモデルルームと中古の管理事務室から入手した性能評価資料など、多岐に渡ります。
結構時間かけて、いろんなところから入手したデータを集計したものとなりますが、結果として網羅率はまだまだですね。
でも首都圏タワマンの耐震性能傾向を掴むには十分な数かと思います。
では行きます。
2.耐震性能実数値一覧
3.前提補足
■一覧ソート順
一覧のソート順はN列のレベル2地震動(震度6強)層間変形角(L2)、M列のレベル1地震動(震度5弱)層間変形角(L1)の降順です。
■固有情報マスキングについて
この記事の一覧のせいで、耐震性能が低いタワマンが貶されることは望んでないので、制振タワマンのL2平均である1/111以下のタワマンは固有情報をマスキングしています。
L1で1/200以下(無被害)、L2で1/100以下(小破)なら一般的な規定数値は守ってるので、外野から文句言われる筋合いはないんですが、いったんマンション名が分かっても問題ない、平均より耐震性能が高いタワマンだけ、固有情報を公開させていただきます。
■応答加速度とレベル3地震動(震度7)(L3)層間変形角
最初は建物被害として層間変形角、室内被害として応答加速度の一覧を纏めてたのですが、応答加速度は規定がないせいで公開してる物件が少なかったので、分かる物件だけQ列の備考に記載しています。
層間変形角と応答加速度に関しては、以下の記事で説明しました。
L3の計測も任意のため、公開してる物件が少なかったで削除することも検討しましたが、せっかくなので載せています。
この2つの項目はぜひとも、今から設計するタワマンでは計測して公開してほしいと願っています。
■この記事の層間変形角数値一覧で耐震性能の比較は本当に可能なの?
この記事のタワマンは2003年竣工以後のものを対象としていて、なぜなら、この辺から2000年に規定された、どんな建物も一定範囲で揺らす地震波である、告示波を使って耐震性能評価をしているからです。
耐震性能計測時に使用する地震波については、以下の記事で取り上げました。
最近のタワマンは観測波、告示波、サイト波、基整促波の4つの地震波で耐震性能の計測を行いますが、首都圏のタワマンは大抵の場合、
L1は観測波で最大応答を示し(被害が大きい)、
L2は告示波で最大応答を示します。
L1は観測波が最大応答と言っても殆どのタワマンの被害は構造体は無被害なので、見るべきなのはL2でしょう。
P列には性能評価時にサイト波も追加検証してる場合は、どんなものなのかも記載してますが、BCJ-L2波以外のサイト波は告示波より小さいか同様の応答を示すことが殆どです。
BCJ-L2波に関しては告示波より強い地震波ですが、この地震波を検証対象にしてるタワマンは一覧上では2件だけなので、備考のQ列にBCJ-L2波の応答を記載して、N列には他のタワマンと同じく告示波の応答を記載しています。
南海トラフの長周期地震動である基整促波に関しても、首都圏は告示波より小さいと上記の記事で説明しました。
ですので、告示波を使った結果を見れば、耐震性能の基準を揃えて比較することが可能です。
観測波で性能計測をした、2003年以前竣工のタワマンもできれば乗せたかった思いはありますが、基準が揃わないので一覧上には2003年竣工のタワマンだけを乗せています。
もちろん、実際に発生する地震は観測波のように周期の癖がある地震となり、必ず一覧の順番で被害が発生するわけではないので、可能性ベースの耐震性能設計スペックはこうなってると、ご理解ください。
4.内容説明
■L1の結果
データ散布図が見れば一目瞭然ですが、3件だけ1/200を超えてる物件があり、全て制振タワマンです。
分譲が1件、残り2件は賃貸です。
■L2の結果:1/90 ~ 1/111の一覧
Q列の備考に、L2が1/100を超えてる物件の特徴を記載してみました。
不整な平面形状、アスペクト比高め、柱と梁を減らした構造の特徴があります。
耐震性能がいいイメージがある直接基礎の物件が1/90の最低性能の物件となっています。一覧全体に言えることですが、
地盤種別(台地・埋立地)
基礎種別(直接基礎・杭基礎)
施工者(スーゼネ・その他ゼネ)
はタワマンの耐震性能と因果関係は特に見られません。
■L2の結果:1/112 ~ 1/148の一覧
DFS制振の物件が3件あり、L2で1/116~126の範囲です。
制振の中では上位の性能だが、最上位まではいかないくらいの性能です。
柱と梁を減らしたなどの別の原因があるかも知れません。
大阪の2件の中で1件だけ、基整促波の記事で説明したOS2地域に位置しており、今のL2告示波 x 1.5倍の地震波が南海トラフで発生する可能性があるので、再計測すると今より高い数値になる可能性があります。
■L2の結果:1/150 ~ 1/473の一覧
・免制震
ベイズの耐震性能は会誌 MENSHINに公開されてますが、計測結果の記載がなく、耐震性能目標しか記載されてなかったので、目標数値を記載しています。L2は1/150~1/199の範囲になるのでしょう。
仮に1/199だとしても、免震全体で150~1/199の範囲は33.3%くらいで、
残りの66.7%は1/200以下なので、免震の平均に届かない性能となります。
理由は柱と梁を減らした構造にあるでしょう。
ベイズは2.45mのサッシ高と梁の少ない、タワマン全体でトップクラスの3次元構造を実現しています。
上の耐震性能が低いタワマンの特徴でも取り上げましたが、柱と梁を減らすことと耐震性能はトレードオフ関係にあります。
ただ、ベイズはタワマン全体で見れば耐震性能の高いタワマンに変わりはないので、メリットの方がデメリットを上回ると思ってます。
・制振
JSCA耐震性能グレードの特級レベルを達成した制振物件が2件だけあり、両方とも森ビルのものです。
特に麻布台ヒルズレジデンスAの耐震性能は会誌 MENSHINに公開されてますが、固くて重いため、制振ダンパーが効きづらいRC造タワマンにおいて、どうすればダンパーが効率的に働くように配置できるかを構造設計段階から工夫してる様子が伺えます。
一般消費者が思い浮かべる制振と言えばこういう物件でしょう。
物件ごとに性能のばらつきはありますが、首都圏全体のデベの中で、一番制振タワマンの耐震性能に気を使ってるデベは森ビルだと思います。
・免震
半分以上の物件がJSCA耐震性能グレードの免震特級を目標に設計していると思われます。
物件ごとに性能のばらつきはありますが、階数の少ない免震タワマンの方が最上位の耐震性能が出やすい傾向があります。
5.結論
この記事の一覧から見える、耐震性能に影響がありそうな要因は以下の二つだと思ってます。
① 構造の一般的な耐震性能目標値に従う。(右に倣えー)
→耐震・制振ならL1で1/200以下、L2で1/100以下
→免震・免制震ならL1で1/300以下、L2で1/150~1/200以下
② 事業主の意思
→コストが掛かっても、選択した構造の中で最大の耐震性能を目指したい。
→耐震性能より、柱と梁の少ないすっきりした居住空間を実現したい。
さて、長く続いたタワマンの耐震性能に関する記事もこれで終わりです。
タワマンの耐震性能を確認するには地震応答の結果資料を見るに限るので、気になるタワマンがあれば、ぜひ確認してみてください。
6.この記事のタワマン一覧
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