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タワマンの耐震・制振・免震・免制震の基本的な特性


1.耐震

地震力に対し、柱・梁・壁のような構造体で耐える構造で、他の構造のベースとなる構造です。

1974年竣工の椎名町アパート(鹿島建設)から始まったRC造のタワマンは、高強度コンクリートと鉄筋の開発と共にどんどん高層化していきますが、柱と梁が基盤の目のように繋がる純ラーメン構造では居住空間内へ柱と梁の影響が大きいなどの制約がありました。
この問題を解決するために1990年代からは、柱を細かく配置して梁で結合したチューブ構造や、建物中央に連層耐震壁を配置し地震力を集中負担させるコアウォール構造が確立され、梁柱の少ない居住空間を確保できるようになりました。
この3つの架構構造が今でも耐震・制振・免震タワマンのベースとして使用されてます。

図:タワマンの主な架構形式(出典:M.M.TOWERS 構造サイト

2.制振

建物の構造体だけなく,ダンパーと呼ばれる装置を建物に配置し揺れを吸収させる構造です。
風揺れや地震の振動を制御する意味で制振と言いますが、地震に特化したことを強調する場合に制震とも言います。

タワマンによく利用されるダンパーと特性は以下のようになります。

鋼材系:安価だが、風揺れには効果なく、大地震時しか効果がない。
粘性系:高価だが、風揺れから、小~大地震に効果がある。
質量系:細い形状物件において、地震よりは風揺れを抑制するために建物頂部に設置する。AMDやTMDがある。

鋼材系と同様の特性がある摩擦系や、鋼材系と粘性系を合わせた特性がある粘弾性系もありますが、タワマンでの使用は多くありません。

ダンパーの配置場所にも種類があり、以下のようになりますが、後者に行くほど後から確立された方法となっており、ダンパーのエネルギー吸収効率も高くなります。

層間設置型:層と層の間に配置。間柱型、壁型、ブレース型がある。
境界梁型:コアウォールの大梁の間に配置。
連結制振型:建物と建物の間に配置。

ダンパー特性と実物イメージとしては、以下の資料が参考になります。

図:ダンパーの特性と設置イメージ(出典:森ビルサイト

タワマンで一番よく使用されるのは、鋼材系ダンパーの層間設置型です。
この形式は超高層RC造の最初の制振構造である、1992年竣工の鴨川グランドタワー(鹿島建設)で採用された以来、制振タワマンの標準モデルとなっております。
ただ上記の森ビルサイトの図にもあるように、鋼材系ダンパーは震度5強を超える大地震レベルの揺れでないと効果がない特性があります。

首都圏では多くの制振タワマンが建設されてますが、2000~2024年の間で一番強い地震であった東日本大震災が震度5弱~5強の中地震でしたので、鋼材系ダンパーだけが設置された首都圏のタワマンでは、一度も制振装置が働いていない可能性が高いことを意味します。

鋼材系ダンパーは大地震の場合でも層間変形角(建物被害)を抑える効果はありますが、応答加速度(室内被害)を抑える効果はないので、日常的に振動を制御する制振構造と言うよりは、万が一の場合は建物被害は抑える、多少性能のいい耐震構造と言った方が実態に近いので一般消費者の認識とは乖離があり、ちょっと大きな地震が来るといろんなタワマンで住んで揺れを経験した人の感想で溢れますが、この辺の事実が考慮されてない感想なので、あまり参考にならないでしょう。
また、タワマンの構造毎の建物被害と室内被害の傾向に関しても今後取り上げていきますが、実は階層によっても被害傾向が結構違いますので、タワマンの揺れの傾向を正確に把握することは結構難しいです。

東日本大震災の後は、小~中地震でも揺れを軽減するために粘性系ダンパーも混ぜて使用するタワマンが増えてましたが、時間が経ってあの震災の記憶が薄れてきてることと建築コスト高騰により、鋼材系ダンパーだけを使ったタワマンがまた増えてるように見えます。

鹿島建設の制振技術:スーパーRCフレーム構法

コアウォール構造に制振構造を取り入れたアップグレード版みたいなもので、コアウォール・フラットスラブ・細い連結柱・スーパービームで構成された建物全体の変形を、建物頂部に設置した粘性系のオイルダンパーで集中吸収する構造です。

図:スーパーRCフレーム構法の構成(出典:鹿島建設サイト

柱と梁を極限まで排除したすっきりした居住空間を実現しており、外観もスーパービームが突出しており、特徴的な形状をしています。
独創的な技術のため、ダンパーのエネルギー吸収効率は不明ですが、境界梁型と連結制振型の間くらいでしょうか。

大林組の制振技術:DFS

Dual Frame Systemを略してDFSと言います。
コアウォール構造に制振構造を取り入れたアップグレード版その2と言うか、いろんなタワマンに適用可能な汎用性がある連結制振型の技術となります。
建物中央に固いコアウォールの立体駐車場棟を作って、粘性系のオイルダンパーで外周部の住宅棟と連結して、周期が異なる2つの構造体の変形差を利用しています。
制振技術の中でもっともダンパーのエネルギー吸収効率が高いです。

図:DFSの効果(出典:ザ・パークハウス神戸ハーバーランドタワーサイト

上記図にもあるように層間設置型の制振とエネルギー吸収効率を比較すると
以下のイメージとなります。

層間設置型:ダンパーが10~20%で、構造体が70%
DFS:ダンパーが70%で、構造体が10~20%

ダンパーのエネルギー吸収効率と言うと、鋼材系ダンパータワマンは10%以下くらいで、粘性系ダンパーを混ぜても20%以下くらいなので、制振ダンパーを効率的に動作させるのが難しいRC造のタワマンに非常に効率的な技術であることが分かります。
地震力を3分の1程度に軽減する表現もあり、これらの数値だけ見ると免震に近い性能があるように見えます。

が、それが本当ならわざわざコストの高い免震を使う必要もなく、世の中のタワマンはDFSだらけになるはずですが、そうはなってないので、あくまで技術で実現可能な数値だと受け止めた方がいいでしょう。
今後、DFSを採用したタワマンの層間変形角がどれくらいかも取り上げてます。

3.免震

免震層を作ることで長周期化と高減衰化の2つの効果を実現し、上部建物に伝わる地震力を2分の1から3分の1に減らす構造となります。
タワマンは中低層マンションと比べると元々長周期建物のため、免震タワマンでは長周期化による地震力軽減効果は多少落ちますが、耐震・制振タワマンと比べると十分な軽減効果はあります。
ただ性能評価資料を見ると、物件毎にばらつきはありますが、中低層RC免震の方で最大の効果を示すことは多いです。

図:免震と制振の最適構造(出典:会誌 MENSHIN NO.101

免震層に設置する装置を簡単に纏めると以下の通りです。

■長周期化装置
天然ゴム系積層ゴム(NRB):減衰力なし(免震ダンパー必要)
鉛プラグ挿入積層ゴム(LRB):減衰力あり(免震ダンパー不要)
高減衰ゴム系積層ゴム(HRB):減衰力あり(免震ダンパー不要)
滑り支承(SSR)/転がり支承(CLB):減衰力なし(免震ダンパー必要)

■減衰装置
免震ダンパー:オイル・鋼材・鉛

最近はいろんな地震を想定してるため、いろんな種類のゴムとダンパーを併用する場合が多いです。

4.免制震

免震 + 上部建物に制振ダンパーを追加配置したもので、東日本大震災以後、長周期地震動の対応で話題になってる技術です。
首都圏に6件該当する物件があり、制振のタイプ別に分類してみました。
制振ダンパーの種類と設置数が分かるものも記載しています。

■層間設置型
・グランドメゾン白金の杜 ザ・タワー(鋼材系間柱型)
・パークコート赤坂檜町ザ・タワー(粘性系壁型・摩擦系壁型・質量系)
・晴海フラッグSKYDUO(間柱型22~44基(※公式サイトの図で予想))

境界梁型
・スカイズタワー&ガーデン(鋼材系:204基)

連結制振型
・ベイズタワー&ガーデン(鋼材系:60基)
・パークタワー晴海(粘性系:96基(※分譲パンフレットの図で予想))

免制震の中でも様々な種類があることが分かります。

一番コストと耐震性能が高いと言われている免制震ですが、
単に耐震性能を高めるために採用したのか、もしくは地震力を減らしたことで柱・梁も減らして、すっきりした居住空間を実現するために採用したのかは事業主によって異なります。
そして、耐震性能は免震層 + 上部建物構造体 + 制振装置の合計で決まるので、免震と比べてどういう耐震性能があるのかは性能評価の結果資料を見比べてみないと何とも言えません。
また、免震を採用することで、上部建物に伝わる地震力を2分の1から3分の1に減らされてるので、上部建物の変形が少ない免制震タワマンの制振ダンパーは、制振タワマンの制振ダンパーよりも効きづらくなると思いますので、どれくらいの効果があるのか気になります。

5.全体構造比較

耐震・制振・免震の特性や各構造毎の導入コストや運用コストですが、以下の資料が参考になります。

表:耐震・制振・免震の特性とコスト比較(出典:川崎市本庁舎等建替検討資料

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