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コーヒーのTraceability


1. コーヒーのtraceabilityとは?

 コーヒーのトレーサビリティーと言う概念が語られる様になったのはスペシアルティーコーヒーの発展によるものである。コーヒーは均一性が求められていた時代には、そのコーヒーの品質が重要であり、その生産地を特定することは意味がなかった。しかし、スペシアルティーコーヒーが発達し、差別化が求められるようになると、コーヒーの流通を遡り、生産地(農園)の証明することが求められる様になった。しかし、コーヒーの流通は時として複雑で、生産地の特定は簡単ではない。

2. 農園コーヒーの定義

 農園コーヒーの定義?それはある特定の農園で生産されたコーヒーであると誰もが考える。もちろん、この定義は正しく、そうあるべきである。
 しかし、実際に流通している農園コーヒーには下記のようなコーヒーもある。

1) 同じ農園で精製(水洗工程)されたコーヒー

 大きな農園になると自前の精製(水洗)工場をもち、自分でパーチメント*まで精製し、その後、輸出業者を通して生豆にまで精製し、輸出する。この農園コーヒーが高価格で取引される品質なら、農園主は周辺の中小農園より収穫されたコーヒーを買い集め、自分の農園で精製し、自分の農園コーヒーとして輸出する。この場合はある程度、コーヒーの生産環境が共通しており、品質に大きなぶれはないかもしれない。
 
 * 注)収穫されたコーヒーは水洗工場で果肉を除去した後、水洗し、コーヒー豆についた糖分を完全に取り除く。それを乾燥させたコーヒー生豆に薄皮が被った状態のコーヒ豆をパーチメントと呼ぶ。輸出直前の乾燥精製工程までこの状態で保管される。

2)他農園のコーヒー

 農園主もしくは輸出業者が他農園からコーヒーを買い付けし、その農園コーヒーとして輸出販売する。これは定義というより虚偽の申告であり、詐欺行為である。品質は保証されず、往々にして低品質のコーヒーの場合が多い。
 悪意がなくても高値で売れれば、つい生産量以上に売ってしまうと言うことはよくある。つまり、生産量は毎年変わり、欲が出ると最も量が多かった年の生産量を前提に売ってしまうのである。生産量が足りなくなった場合は周辺農園からコーヒーを買い付けし、自分の農園コーヒーとして販売する。

3)農園コーヒーの実態

 以下は、私がグァテマラのコーヒー輸出会社に出向していた2002-2010年の間の経験の話しである。

① ウエウエテナンゴの大農園
 この農園のコーヒーはインターネットオークションで常に1−2位を争っていた非常に有名な農園で、収穫作業に特徴がある。労働者には他農園より遥に高額な報酬を払っていたが、収穫したコーヒーに未熟豆や過熟豆が5%以上含まれていた場合、そのコーヒーはすべて廃棄され、労働者は1日分の収入がゼロになる。この様に入り口で品質管理を徹底すれば、後の精製工程での品質管理は容易になり、高品質のコーヒーができる。
 この農園のコーヒーは周辺農園のコーヒーとは品質に格差がありすぎて他農園のコーヒーと一緒にはなりようがない。純粋な農園コーヒーの好例である。
 他にも独自の生産、精製工程にこだわりを持つ良心的な農園主もいる。

② 同じ農園の水洗工場で生成されるコーヒー
 品質の評価が高く日本にも固定客がいた農園があった。毎年の様にその農園を訪れたが生産量に比較して農園が小規模だなという印象を持っていた。生産量を聞いてもいつも誤魔化された。
 精製工場は農園の規模から見て立派すぎると思っていたが、さらに、川下にもう一つ工場を作りたいと言う計画も聞いた。
 しかし、生産量は毎年大きなブレがあり、やがて、その農園主は周辺の中小農園からコーヒーを買い、自社工場で精製したパーチメントを農園コーヒーとして輸出業者である我が社に販売していたと言う事を理解した。しかし、品質は安定しており、これは農園コーヒーとしては許容されるだろう。
 誤解のない様に説明したいが、当時はこの農園のコーヒーはあるブランド名で販売しており、農園コーヒーとしては販売していなかった。

③ ある有機コーヒー農園
 水洗工程の工場を持たない中小農園よりの買い付けを増やすため、ある地方に水洗工場を開設した。するとすぐに日本の商社にその農園主から今すぐにその工場を閉鎖しろ。さもないとお前には自分のコーヒーは売ってやらないと強硬なクレームが入った。それを聞いて皆、腹を抱えて笑った。私が買っていたのは有機栽培コーヒーではなく、普通のコーヒーである。クレームをつけてきた農園主は有機栽培コーヒー専門の生産農家である。そして業界ではかなり評判の良い農園であった。
 周辺の農園からコーヒーを買い付けし、自分の農園の水洗工場で精製すると言う点では上記の例と同じである。しかし、普通のコーヒーを有機栽培コーヒーとして輸出するのは虚偽であり、犯罪行為である。なぜなら有機栽培コーヒーと普通のコーヒーには味に差がなくても大きな価格差があるからだ。しかし、その農園で生成され、有機栽培コーヒーとして輸出されている大半のコーヒーは偽物であるという事を自白してきたのである。

 農園コーヒーの裏側の事情について述べてみた。美味しいはずの農園コーヒーがいつもと違うと感じた時はこの様な裏事情があるのかもしれませんね。

以上


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