5話・はじめての中国大陸
1・バンに揺られながら初対面の同僚たちと会話
会社が手配してくれたバンに乗って、空港の外を走る。
周囲は、一面の農地。
既に収穫したのか、これから何かを植えるのか、よくわからない田畑が広がっている。
時折、レンガ造りの背の低い建物が、風景の一部となって現れては消える。
ふと、おととしスペインの田園地帯を旅したときを思い出した。
同じ大陸系だと、アジアとヨーロッパとは言え、似てくるところもあるのだろう。
迎えに来てくれた、主任と新人2名と、あれこれ話す。
入国審査はすんなり行けたが、なぜか荷物が一番最後だったこと。
出迎え組としては、一向に私が出てこないので時間を間違えたのでは?と一抹の不安がよぎったこと。
中国の田園風景が、そこはかとなくスペインのそれに似ていること。
簡体字の「业」は、新字体の「業」であること。(看板を見ていた)
これまで、個人的にシンガポールや台湾、それに香港などの人たちと話したことは幾度かあったが、中国本土の人としっかり話すのは、これが初めて。
やや緊張はしたものの、特に問題があるわけでなく、始終無難な会話で盛り上がった。
2・驚愕の宿舎
さて、当時、中国で外国人が部屋を探すというのは、やや不便なものだった。
探そうと思えばできないことはないのだが、まず建物のつくりからして品質に問題があるのが普通であって、仮に貸し手とうまく交渉できたとしても、その後、停電・漏水をはじめとした予想を超えるトラブルが必ず続発する。
法律もあまり頼りにならないので、そこは何か起こるたびに自力で解決していかなければならない。
それこそ日本で中国語を覚えて、中国で仕上げに入るようなホンモノであれば、むしろトラブルは願ったりなのだろうが、私のような中国経験ヴァージンにとっては、相当ハードルが高い。
会社もそれを見越して、あらかじめ部屋を用意してくれていた。その場所については、もう少し前置きに付き合っていただかなくてはならない。
さて、会社に着いた後、さっそく本社ビルの内部を案内された。
ビルは7階建て。地下はなし。
最上階は社長室と、企業付きの共産党員の専用執務室。
6階には喫茶スペースと、部長クラスの人が使うオフィスが。
5階以下は、通常業務に携わる部署やスタッフたちのオフィス。
・・・そして、私の部屋。
それは、そのビルの3階の端っこであった。
主任いわく、敷地内に寮専用の建物はあるが、外国人向けには、ここの部屋が一番よい設備。ここはリビングとベッドルームが個別に分けられており、エアコンも完備で、冷蔵庫から加熱調理機・食器や調理器具がそろっており、さらにシャワールームに備え付けてあるトイレはウォシュレット仕様。
とのこと(笑)
その後、中国人向けの社員寮を覗きに行ったことがあったが、確かにそこよりはるかに快適な居住環境であった。
ちなみに、この中国製の最新式ウォシュレット。離れたところからのリモコン操作も可能で、便座の内側に謎のブラックライト照明も内蔵されているスグレモノであった。
中国を理解しようと努めるものに、油断は禁物。
たとえそれが、着陸直前の機内であっても、自室のウォッシュレットであってもだ。
自分の中の直感が、自身にそう告げていた。