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(55)エピローグ 今になってわかってきたことーーchinko to america by mano

 2001年9月11日――。
 アメリカから日本に舞い戻り、1カ月が過ぎようとしていた。
 帰国したらすぐに仕事を見つけて、再び1人暮らしを始めるつもりだった。だがオレは、いつまでも実家にこもったまま、ずるずると怠惰な生活を送っていた。
 
 夜のニュース番組で、マンハッタンの世界貿易センタービルが映し出されているのを見たのは、風呂から上がってすぐ、冷えたビールをコップに注いでいたときだ。
 ニュースキャスターの慌ただしい口調から、ニューヨークで何かが起きていることはすぐに感じ取れた。テレビの画面を凝視すると、2棟建つ貿易センタービルの一方から煙が出ているのが窺える。キャスターは、数分前に航空機がビルに衝突したという情報を伝えていた。単なる事故なのか、それとも企図されたものなのか、判断しかねる様子だった。

 ビールのグラスを持ったまま、画面から目が離せなくなる。空高く立ち上る煙の勢いは、ますます強くなる一方だ。
「大変なことになっている……」
 焦る気持ちで成り行きを注視していると、画面に突如、航空機が映り込み、ビルに突っ込むのが見えた。
 一瞬、先ほどの衝突の様子をとらえた映像が再生されたのかと思った。だが、手前のビルからは相変わらずすごい勢いで煙が立ち上っている。となると、別の航空機がもう片方のビルに激突したと考えるしかない。
 テレビに映るその光景はあまりにも常軌を逸しており、実際に今起きている出来事だとはすぐには思えないほどだ。
               
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