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(50)ソフィアとの将来ーーchinko to america by mano

 標識に従って280号線を東に向かいニューアークに入り、次に78号線へとスイッチする。ニューヨークまではもう目と鼻の先だ。
 入り組んだジャンクションの分岐を間違えないように神経を集中させて運転していく。このまままっすぐ進むとイーストリバーの真下を通るホランドトンネルに通じ、そこを抜けるとマンハッタン島に出られるはずだった。
 すでに陽は沈み、空は暗くなっている。それと入れ替わりに、道路脇の広告看板が眩しい光を放ち始めた。先ほどから緩いカーブを曲がるたびに、その先に摩天楼が現れるのではないかと胸を躍らせている。しかし、いつになっても視界は開けなかった。
 何度も期待を裏切られてがっかりしていると、道路が側壁に囲まれ始め、ソフィアとオレの乗る車はトンネルへと吸い込まれていく。どうやらこれがマンハッタンへと通じるホランドトンネルらしい。
 トンネル内はオレンジ色のライトで照らされ、異次元の世界にいるような錯覚にとらわれた。前の車の赤いテールランプに注意を払い、直進していく。
 
 数分後、行く手が緩やかな上り坂になり、オレたちは再び地上に躍り出る。おそらくマンハッタンにたどり着いたのだろう。緊張が一気に襲ってくる。まずはどこかに車を止めたいところだが、タイミングがうまく取れずにそのまま運転を続けた。
 ほどなくして、気持ちに余裕ができたので、スピードを緩めて暗くなった窓の外を見回した。その瞬間、オレはとんでもない衝撃を受けるのだった。
「陳氏食品公司」
「大通銀行」
「紐約西餅店」
 暗い通りの両側には、いたるところに中国語の看板が掲げられている。それを見たとき、オレは自分の目を疑った。マンハッタンに上陸したはずなのに、なぜ周囲は中国語だらけなのか? 一瞬の混乱のあと、すぐに気を取り直し、チャイナタウンに迷い込んでしまったのだと理解する。

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