前田公輝主演ドラマ『凍牌』のすすめ

常にツイッターでは「凍牌はいいぞ」botと化している真野ですが、毎回バラバラと140字×X(長い)でツイートするのもなんなので、おすすめポイントをまとめてブログ化しておいて、おすすめしたい時にぽちりとリツイート出来るようにしておけば良いのでは、と思うようになりました。まぁ、いつものやつなので既知の方はスルーしていただけると(笑)

『凍牌』とは、正式名称は『裏レート麻雀闘牌録 凍牌』という、志名坂高次先生原作の漫画のこと。我々前田公輝クラスタが単に『凍牌』と話題にする時は、大抵、小沼雄一監督、前田公輝主演により実写化されたVシネ版のことを言うことが多いです。
この、実写版には三つの凍牌があります。

【1】『凍牌<劇場版>』
【2】オリジナルビデオ『凍牌〜裏レート麻雀闘牌録〜』vol.1〜vol.6
【3】オリジナルビデオ『凍牌〜裏レート麻雀闘牌録〜全日本竜凰位トーナメント篇』vol.1〜vol.6

【1】は【2】の途中までをまとめたもので、【2】と【3】を見る人はスルーしてOK。【3】はタイトルが長いので「二期」や「トーナメント篇」とだけ呼ばれることも多いです。
いずれもAmazonプライムの見放題に入っているので大変おすすめがしやすく、個性的な脇キャラを演じることの多い前田公輝さんが主演ということもあり、沼入りした人がいると凍牌ファンが取り囲んでおすすめをするのが風物詩ともなっています。
でも、DVDには配信版には入っていないメイキング映像が入っており(特にトーナメント篇の方は各巻20分という長尺で見応え抜群)、結局DVDを購入する人が多いのでありました。DVDのセルが基本のVシネらしく、お値段が各巻2,000円未満というリーズナブルなところも手を出しやすいところ。
※「Vシネ」は東映の登録商標ですが、セルオンリーで劇場公開を前提としないDVD作品のことを一般的に「Vシネ」というので本記事でもそう記載しています。

「Vシネといえばヤクザとギャンブルもの」「怖い」「暗い」「おっさんが見るもの」というようなイメージはないでしょうか? 私はありました。『凍牌』も勿論そういう作品の一つではあります。ヤクザも出てくるし賭け麻雀なのでバリバリギャンブルもの。明るい作品でもない。人も死ぬ。
でも。これが、はちゃめちゃに面白い。
イメージの先入観で忌避する人がいるなら勿体無い。勿体なさすぎる。
とんでもなく面白い大傑作なんですが、「Vシネの麻雀もの」というジャンルのイメージとパッケージの地味さ(私は格好良くて大好きですが!!)でこれがそんなに面白い作品だと一見して分かる人は少ないのです。
そんなわけで、お節介だとは分かっていながらも、ネットの海のあちこちで履修済みの人間たちが「凍牌はいいぞ」ゾンビと化して仲間を増やそうと蠢いているのであります。

・凍牌の良いところ
①主演の前田公輝(当時22歳)の演技力が凄い

今でこそ朝ドラの好青年役や恋愛ドラマの好演などもあってイメージが払拭されましたが、以前は前田公輝といえば犯罪者役に定評があり、テレビ局の複数のプロデューサーが「前田公輝にどんな犯罪をやらせたか」を競い合っていたという謎なエピソードを持っているほど。出世作となった『HiGH&LOW』シリーズも、前田さん演じる轟洋介は初登場時には主要キャラである村山を人間として成長させる為の憎まれ役というキャラ付けで登場。轟のビジュアルの美しさと、村山を演じる山田裕貴さんとの白熱の演技合戦により今では大人気キャラに成長しましたが、やはり最初は犯罪者イメージからの起用だったのだと思われます。
その前田公輝さんの数少ない主演作。
確かに、犯罪者や癖のある陰気なキャラクターが得意な前田さんが起用されたのも分かる気がする、影のある表情の主人公、ケイ。現役高校生でありながら天才的な麻雀の才能を持ち、訳あって多額のお金を必要とする彼は、一歩間違えれば簡単に死に至る危険なヤクザの代打ち家業に手を染めます。文字通り命をかけた勝負の中で見せる彼の非情さ、覚悟、恐怖を感じないのではなく恐怖に震えながらも崖っぷちで踏みとどまって必死に戦い続ける彼の、ほんの時折り見せる高校生らしい若さと脆さ。それらを「雀卓を囲む」という行動制限の中で余すところなく見せてくれる前田公輝という役者の演技力が思う存分堪能出来ます。
テレビドラマでは(放送局の自主規制的なアレで)見ることの出来ない限界ギリギリの描写もあり。前田さんの「痛み」の演技がこれでもかと見られるので、「推しが痛がったり苦しんだりする演技からしか得られない栄養がある」癖の方も是非。

②脚本演出が素晴らしい

私は麻雀牌にすら触ったこともなくルールもまったく分からないど素人中のど素人ですが、その私でも今ゲームがどういう状況でどういう駆け引きが行われているのか、牌の名前も役の名前も分からなくてもビリビリと伝わってくる。台詞は必要最低限で、画面への視覚情報の乗せ方が上手いし、駆け引きをしている役者さんたちのちょっとした表情や仕草から状況が全て伝わってくる。(これは後述するベテラン俳優陣の実力によるところも大きいと思いますが)
原作からのエピソードの取捨選択と画面への落とし込みが巧みで、視聴者がエピソードに振り回されることもなくスムーズに見られます。勿論、起死回生のどんでん返しはきっちり漫画的なインパクトの強さで見せてくれるので、脚本&演出のバランス感覚が素晴らしいんだなと思います。
麻雀を知らない人、麻雀ものの漫画やドラマを見たことがない人でも十分楽しめます、とサラッと言ってしまうと簡単そうですが、これがどれだけ大変で技術の要ることなのか、素人には分からないのですが多分相当凄い離れ業なのではと想像しています。
アクションのような大きな動きがほとんどない画面で一瞬たりとも退屈させない。これはもう、文章で説明出来ないので見てもらうしかないのですが。密室ものの推理サスペンスドラマを見せられている気分。ハラハラドキドキ。麻雀を知らない人間に麻雀の駆け引きで手に汗握らせるってことがどれほど凄いかって話ですよ。

③ベテラン俳優陣の演技対決が凄い

そりゃあもう、バッチバチです。火花が飛び散っているのが目に見えそうで恐いくらいです。
麻雀ものの良いところは、舞台装置にお金がかからないところですよね。基本的に密室でOK、ステージは小さな全自動麻雀卓、そこに四人の俳優を座らせたらベーシックな舞台は完成です。多分、Vシネに麻雀ものが多いのは客層もありますがそういう舞台装置に割く予算が少なくてすむ、というところもあるのかも。
その代わり、その分、役者に予算がかけられる。いや、俳優さんのギャラとか全然分かりませんけれども、これだけ演技巧者のベテラン俳優陣を揃えられるのだからかかっちゃいるでしょーそら。普段からヤクザものとかを見ているわけではないので役者名は分からなくても、お顔を見れば「うわーーー邦画で脇を固める渋いバイプレイヤーの皆さんやー」と見覚えのあるお顔が多い。そうでない方も、私自身がそんなにドラマや邦画をたくさん見る方ではないので知らないだけで、きっと演技経験豊富な方ばかりなのだろうなと確信できるくらいとにかく皆、その演技に凄みがある。ちょっとした仕草や視線の動かし方、ポツンとこぼすように放つ台詞の斬れ味の鋭いこと。

あ、そういえば、凍牌、いわゆるヤクザものの一種だと思うんですが、怒鳴り合うシーンが凄く少ないんですよね。恫喝したり派手に暴力を振るったりするシーンが少ない。(無いとは言わない)それなのにめたくそ恐い。暴力団幹部の高津さんなんか、いつも穏やかな微笑みすら浮かべてるし、話す時もゆっくり話す。声を荒げることはほとんどない。でも目が全然笑ってないし、その優しそうな微笑みを浮かべたままで一発だけ弾丸を撃って確実に人を殺すし、未成年の素人ケイくんの足の指を何の躊躇いもなく切り落とす。
ああ、本当に恐い人ってこういう人よね。そんでもって、最初はピーピー泣いてたケイくんが高津さんはじめ裏社会の人たちの中で揉まれてどんどん眠っていた本性を目覚めさせて、視線一つ、指先ひとつ、「ロン」の一言で人が殺せる化け物に成長していくところが物凄く恐いし、だからこそ惹きつけられて目が離せない。これはそういう、静かな暴力のドラマで、この小さな四角い舞台の上に己の演技力という牌を裏返して並べて一つ一つ表に返していくような役者たちの演技対決があってこそ、の作りになってる。
恐い。何が恐いって、監督の役者の演技力に対する信頼感が何よりも恐い。この中に演技の稚拙な人が一人でもいたら台無しになる。そういう作りになってるじゃん。こっっっわ!
この時主演の前田さんは22歳。百戦錬磨の熟練俳優たちの中で、震えながらも一歩も引かずに演技対決を堂々と受けて立つ姿に震えが来る。共演者に同世代が多い他の作品では見られない姿かも。

・凍牌の悪いところ
①続編がない

……竜凰位トーナメント戦からもう8年ですか。
原作も完結したことですし、実写版の続編、待ってますんで。またあの、ヒリヒリした白刃を交わすような演技対決が観たい!!
あれから様々な役を経験された前田公輝さんが今ならどんな氷のケイを見せてくれるんだろうと、想像するだけでもワクワクするんですけど。
どうですか、偉い人!

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