両親の老いの姿に四半世紀後の自分を重ねて③:言うことをどこまで信じて良いのかわからない。ただ、なんでも人のせいにする。
小学生低学年の頃、忘れ物をした子が教員に理由を訊かれて
「はい。お母さんが、入れるのを忘れました!」
と、堂々と言って余計に叱られることがよくあった。
「お母さんがじゃありません!自分のことは自分でしなさい!明日の準備は連絡帳を見て自分でするんです!!」
と。
まさか半世紀経って、自分の親が同じ論法の言い訳をするとは思わなかった。
白内障手術の為の入院に際し、入院係の説明を妹と私付き添いで受けた母は、全く聞く気がないうわの空の様子であった(聴力減退も理由のひとつだが)。私は、母の年金の手続きの為の委任状を書いてもらって、売店の複合機で本人確認書類のコピーをとっていたから入室が遅れて、説明は半分方済んでいた。
その後、母が、手術の時刻については前日連絡になるという説明を聞き逃していることがわかって説明し直した。母は、施設まで妹に送ってもらう車の中で
「『説明は妹が聴いているからお母さんは聞かなくていいよ』ってお姉ちゃん(私)が言ったの」
と言い訳したらしい。
「お姉ちゃんは後で来たよね。そんなこと言ってなかったよ」
と、妹は受け流した。
手術は成功し、よく見えるようになった。次の診察の日、私が母を施設に迎えに行き、病院で妹と合流することになった。施設で母を乗せ、持ち物を確認する。保険証、難病受給者証、お薬手帳はある。でも、診察券がない。母に訊くが
「あのね、全部妹が仕切っているから私にはわからないのよ」
と言う。そんなわけない。妹は前日にグループLINEに
「お母さんこれよ、この白の通院バッグ。持ってきてね」と写真を載せていた。母が持っているバッグは黒だ。
妹に電話する。
その結果、母がバッグを替えたために、受診に必要な物を入れ替え切っていないことがわかった。通院バッグを取りに戻ってもらう。
病院に着き、診察券を通す。
すると、『受付できません。入院外来にお越しください』という紙がするすると出てきた。機械のエラーは入院外来でメンテするのか?入院外来に行く。
「入院費の清算ができていませんのでお支払いをお願いします」。
え…?
「お母さんお金持ってる?」
母からお金を受け取って支払う。
「退院が土曜日だったから、後日請求書が来ることになっている。でもまだ来ないからお金を持ち歩いていた」
え?
退院の日から、既に月が変わっている。レセプト請求と、窓口での一部負担金の回収は医療機関にとって死活問題だから、すぐに送ったはずだけどな…。妹に聞いてもそう言うし、施設も忙しいし、20日程度のタイムラグはあるのか…な…?長くないか?普通郵便だと追跡もできないか。郵便事故かな?
その10日後、母の携帯に、株式会社アメニティというところから、『入金の確認が取れておりません』というショートメールが来たという。番号は0120…。
「詐欺か?」
私と弟妹は色めきたったが、妹が、
「もしかしたら入院の時の歯ブラシとかのセット頼んだけど…?」
という。
フリーダイヤルの番号を検索してみたところ、入院時のアメニティグッズを販売する会社で、医療機関で導入しているところは多いらしい。入院費の清算とは別に患者との直接契約だとしたら…?
病院の入院係に電話して確認したらやはりそうだった。
次は株式会社アメニティに電話する。9/2に着くように請求書を送ったが入金確認ができていないという。再発行を依頼して、送付先を妹の自宅にしてもらった。
「施設なので数日分まとめて届けられるし、他の利用者の郵便物に混じることもあるみたいで…」(施設よ、申し訳ない。口から出まかせです。でも、母が『届いていない』と言うからには一応、見にもいかずに母の責任を問うわけには…。)
数日後再発行された請求書が妹宅に届き、支払いを完了させることができた。
グループLINEに妹が投稿してくれた写真について、母に、
「見覚えはありますか?」
と尋ねたら
「なんのこっちゃ」
との回答。さすがにその言い草はなかろうと、ことの経緯を説明した。こういうときの私の文章はtuではなく、 vousになる。
しょんぼりと謝る母に
「もう大丈夫よ。解決したからね。妹がちゃんと解決してくれたから」と、tuになる。
数日後、施設入居後すぐに父がレンタルした歩行器(手押し車タイプ)の契約書と口座引き落とし依頼書をご提出くださいと、施設から妹宛に丁重に申し入れがあったというグループLINE投稿が来た。。妹が度々、職員さんに渡しなさいと言っていたのに2か月経ってもまだ出していなかった?!
それに対して母が
「(父は)『ガタガタ言うならここを出る』と言っているよ」
と答えている(さすがに申込用紙と引き落とし依頼書を提出した後だったらしいが)。
なんだとぉ?
「2か月も待っていただいておきながらなんということですか。アメニティにせよ、歩行器にせよ、未払いを平気で開き直るようではどこからも嫌われて退去させられますよ」
と早速投稿。
母からの返信
「マンネンロウから叱られるいわれはないよ。しばらく会わないね」。
まあ、半月顔を出していないけど。しかしナニサマのつもりだ。
「世間一般の常識を指摘しただけです。ついでに言えば、入院費については病院から連帯保証人を求められたので私がなりました。あのまま支払わないでいたら、私のところに請求が来るシステムです」。
母からは、
「こわいシステムだね」
と返信がきた。
いやいや…こわいのは請求書を放置して『来ない』という神経だろうに。
どうも、ひとつひとつの書類を仕分けて確認したり処理したりするのが億劫で、思考放棄して投げやりになっているような気がする。
管理職だったのに…2人とも。
偉そうなところだけ、管理職の片鱗を残していても哀しいだけ。
妹が行ったとき、冷蔵庫に、賞味期限が当日の食品があったという。早めに食べるようにと言ったら、
「昨日ここの人(職員)が買ってきた(買い物をお願いすることができる」
と答えたので
「そんなに人のせいにしたら警戒されて買い物をしてくれなくなるよ。自分で期限を確認して管理しないと」と言ったらしい。
「買ってきてくれたの、昨日じゃなくてもっと前かもよ」
と返信したら、
「あり得る…」
と、妹。
「聞いてるの?!自分のことなのよ!自分が困るのよ!」
「見なさい!自分で覚えなさい!お母さんがやってるからってすぐテレビの方を見たらあなたのためにならないでしょう」
必死に叱って教え込んでくれた人。
子ども 叱るな 来た道じゃ
年寄り 叱るな 行く道じゃ
でも、全ての行為を容認していいんですか?
叱っても仕方がないにせよ、
他人に迷惑をかけては…。
母はお盆ごろからなにかというと
「産んであげたのに」
「育ててあげたのに」
と言うようになった。
親として、これを言うようになったら負けだと私が考えていることを。
私もなるのか。それを言うように…。
母は、これまでの人生、幸せだっただろうか。
それとも、思うに任せずつらく悔しいことばかりだっただろうか。