羽衣ジャスミンおそるべし
数年前、羽衣ジャスミンの苗3株を買い求め、3株とも1つの鉢に植えてフェンス際に置いた。
細いつるを延ばしてフェンスに絡みつかせ、毎年、3月半ばになると蕾が真っ赤に色づき、4月の半ばに小さな白い花をびっしり咲かせる。その甘いかぐわしい香りが慕わしくて、楽しみにしている。
今年は特に見事だった。
今日ふと、大きくなったのに鉢が小さくて根詰まりを起こすのでは?と思った。つるどうしがが絡み合い、かたまりになって茂り過ぎてアンバランスだ。
なぜ、水切れを起こす様子がない…?
終わった花を剪定しようと近寄ってびっくりした。
つるどうしが絡み合い、延び拡がり、他の鉢にたどり着いて根を下ろしているのは可愛い。
が…………………!
プラスチックの鉢を動かそうとして、ぴくりとも動かないのはおかしい。コンクリートの上に置いているのに。
よく見ると、鉢底の隅の水抜き穴から根を伸ばし、コンクリートに続く地面にもぐりこんでいる。水抜き穴を通り抜けた時の根は繊かったのだ。多分。通り抜けた所で3cmほどの瘤のような塊を作り、そこから更に伸び、巧みに地面に潜りこんでいる部分の直径は1.5cmを超えていると見える。
1つの株だけが巨大化したらしい。鉢から出ている株元は直径5cm?ほどもあろうか。そこから、太くなって木質化したつるが何本も伸び、ねじれながら巧みにフェンスに絡まり、フェンスを抱きかかえ…。木質化したつるを見ていると、このまま成長したら藤蔓のようになるだろうと予測がつく。
それは素敵だという考えがちらと頭をかすめるが、借り上げ社宅なのでそれは流石にまずい。
そして今すぐに手を打って植え替えをしないとこれ以上暴れ出してからでは私の手に負えなくなる。
かなり強靭な生命力であることはわかったから、とてつもなく荒っぽいけれどもごめんね我慢してねとのこぎりを持ち出す。
フェンスから全てのつるを外しにかかる。
咲き終わった花が降るようにこぼれ落ちる。
絡み合ってなにがなんだかわからないのではさみでつるを切り、フェンスに螺旋状に巻き付いたつるを外していく。
地面にもぐりこんだ根をのこぎりで切る。
鉢から株を抜きにかかる。
枯れた株と、小さい株は抜き取れた。
まず、小さい株をちょうど空いていた別の鉢に植え替えて水をたっぷり与え、日陰に移動させる。
巨大化した株は、鉢いっぱいに根を張り巡らせていて、そのうちの特に太い直径1.5cmほどの1本が、鉢底穴を通り抜けたのちに肥大し、鉢底穴と一体化している。仕方がないので鉢を破壊するべくのこぎりで引くが、鉢に切れ目ができても根は抜きようがないとわかる。
鉢底穴に到達するより手前の部分の根をのこぎりで引く。
ねじ切るようにして、やっとのことで鉢から外す。
しかし
株元が直径5cmほどもある株を植え替える鉢がない。今抜いたばかりの鉢に新しい土を入れて植えることにした。
2時間ばかり格闘して、あたりが夕闇につつまれたころ、なんとか植えて、水だけはせめてたっぷり注ぎ、風や直射日光の当たらない場所に置く。
ごめんね手荒な応急処置で。
ごめんね今度新しい鉢を買って植え替えるからね。
ごめんね、痛いことして。
ごめんね。
ごめんね、お願い、枯れないでね。
繊細で、儚く、頼りなく見えるつる性植物、
………恐るべし………。