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じわじわと蝕む

住民票閲覧制限をかける為に、警察署に行った。DV相談実績が必要なので。
担当者の面接があった。
その後で、市役所に行った。
ここでも、説明と担当者2名による面接があった。

実際に、どのようなことがありましたか。
と尋ねられてハッとする。
具体的な事例として、言葉に出てこないのだ。
心療内科にもかかっているし、女性センターにも相談している。弁護士とも契約している。それぞれ、モラルハラスメント・虐待ですらあると判断されているのに。なぜ、すぐに言葉にならない?



警察署では、時系列で問いかける形でヒアリングしてくれた。

次第に、ぽつりぽつりと言葉になる。
子どもの給食費が、残金不足で引き落としできませんでした。夫が家計管理をしていた時期のことです。残金不足だったのはメインバンク、給与振込口座です。さすがに、夫の親に諌めてくれるように頼んだところ、「あなた達が我慢すればいいことだ。お金がないことは別に、恥ずかしいことではない」と逆に諭されました(昭和20年代の話ではない。平成18年のことだ。11月だったか)。私にとっては、親としてこれほど恥ずかしい事はなかなかありません。この人に任せていてはダメだ!と思いました。


そうだ…!
夫は、自分のおもちゃやマンガ、趣味などにはお金をどんどん使った。怖いほどだった。そして、年払いにしている生命保険料が落ちないから定期預金を解約してきてくれと言い出したりもした。それで、通帳の繰越を頼まれたときにそのまま通帳を私が持って(キャッシュカードは夫が持っている)、お金の動きを観察していた。
1年半後、次の転勤辞令が出たとき、1ヶ月先に赴任する夫に、小口の金額を入れたキャッシュカードを渡し、メインバンクのキャッシュカードを私に渡してくれと言った。こちらでの支払清算があるからと。いよいよ新しい赴任地に引越したあと、地元地銀に給与振込口座を開いてきてくれと言われたので、口座開設をして口座番号を知らせ、給与振込の手続きをしてもらったが、通帳とキャッシュカードは渡さなかった。夫には月々の小遣いを渡し、私はエクセルで家計簿を付け、毎月それを見せて家計管理の報告をした。
夫は怒った。
子どもは高専生(県外なので寮生)と中学生。教育費がかかり始める時期だった。
夫は、上の子に持たせている携帯電話代金が無駄だと言った(寮生は全員携帯電話を持っている。工業高等専門学校:テクノロジーカレッジ というからには、携帯電話くらい使いこなすのは当たり前。強要はしないまでも、持たせないというのは学校としては想定外らしかった。一応学内に公衆電話はあったが、もう何年も誰も使っていないから壊れているかも…という話だった。実際壊れていたらしい)。それでどうやって上の子は家族や友人と連絡を取ればいいのだ。
次に夫は、インターネットプロバイダへの支払が無駄だと言った。この、夫の主張で我が家にはその2年前までパソコンがなかった。上の子も下の子も、使ってない期間分パソコンスキルが低く、授業ではパソコンが既に導入されていたから2人ともかなり苦労していた。
夫は、生活費として現金をあまり渡されない私が利用していた生協(転勤族家庭では、地域に溶け込み知り合いを得るにも生協に助けられる)も無駄だと言った。毎月、引き落とし額を報告していたのだが、生協をやめてくれと言い出した。前任地までは夫にお弁当を作っていたのだが、先に赴任している間に外食して、つましい予算のお弁当がイヤになったらしく、「あのお弁当が美味しいか!?」と皮肉を込めて言う。
オレのカネだ。返せ!
なんで子どもに勉強させんといかんのじゃ!そんなことをせんかったらワシがもっとカネを使えるはずじゃ!!

一方的に責め立てられ、すべては私のせいだと言われた。
夫は、会社の昼休みに自宅に急に帰ってきては、家探しをした。私がパートから帰ってくると、出かける前とはものの位置が変わっていたりする。誰かが留守中に家に入って何かをした形跡がある。

夫はいきなり、家にある通帳を全部出せと言い出し、形相を変えて預金残高を数えあげたりもした。



毎年、お盆休みにだけは、私の実家にも帰ることができた。その年も、お盆休みに最初に夫の実家に行き、次に私の実家に向かった。そのときは、私の親が、近くの温泉付きの宿泊施設を予約してくれて夕食に懐石料理をご馳走してくれた。一泊だけど、今夜は何回でも露天風呂付きの温泉に入って楽しんだらいい、との、両親のはからいだった。
翌朝早く、夫に怒鳴られた。
昨夜は何度も部屋を出て行ったが(温泉に行った。長湯は合わない体質なので、短時間を何度も)、浮気でもしているのではないのかと。そして、荒唐無稽な邪推や言いがかりでののしられた。
その後、私はしばらく寝込んでしまった。
以来、10年、私は1度も実家に帰らなかった。10年後、1度だけ日帰りで実家の手伝いに帰っただけ。私のことで『夫のお金』を使うわけにはいかないから。
家計管理をしていることをなじられ、泥棒呼ばわりされ、しかしながら家計管理を夫に返しては子ども達の将来が潰される。
ATMに行くのが怖くなった。強迫観念が出るようになり、暗唱番号を何度も変えた。変えると尚更強迫観念が出る。さぞかし挙動不審であろう。周りから怪しまれているかもしれない。そう思うと尚更ATMが怖い。


「ATMが怖いです」。
そう言って、心療内科に行ったのは12月だった。パートも、家をあけるのが怖くて(居ない間に誰かが入った形跡があるのが怖くて)辞めた。



1月2日。「体調が悪いからここにとどまって休む」と、夫の実家に行かないことを告げたら夫まで実家に戻らず不機嫌に居座っているお正月。夜、不機嫌の極みに達した夫が怒鳴り始めた。何がきっかけだったかは忘れた。夫は、本当は実家に帰りたかったらしい。しかしいつも、家族全員引き連れてでないと帰らないのだ。そんな夫に、高専2年の長男が、卒業したら国立大学3年次編入をしたいと夫に話している。泣きながら、大学に行かせてくれと言っている。「なんで子どもに勉強させんといかんのじゃ!」「カネがなかったら大学なんか無理じゃ!!」という夫。
しかし、自分の趣味にはお金を使いたい夫。
子どものお年玉にと自分の親や親戚から渡されたお金を、おもちゃやゲーム関係のイベント(本当は自分が行きたい)に子どもを連れて行ってやるから、という名分で使う夫。
…私は熱が出てきた。
理にかなっていない言い草に、つい私は論理で対応してしまう。
キレる夫。
すべて私のせいだという夫。
言い争いは、夜中まで、家族全員を巻き込んで続いた。


………私は、そのとき一度壊れた。
思考力、判断力が著しく減衰した。
これまで、自分自身を頼りに頑張ってきた私にとって、その自分自身が壊れたことは恐ろしいことだった。

心療内科医は、
「治ります」
と言った。
「過労です」
と言った。
「20分。20分何かをしたら、休みなさい」
と。
夫に説明しましょう、今度の診察は一緒に来てください、と。

説明を聞きに来た夫の様子を見た医師は、後日、私ひとりで行った際に、高機能自閉症というものについての知識を与えてくれた。
………の可能性がある場合には、………のようなことを言っても理解しない。
………の可能性がある場合には、………のような言い方に、………という反応を起こす。
などなど。




このたび、警察署のDV相談や市役所での手続きにおいて、すぐに言葉にならなかったのは、
恥ずかしいからだ。
愚痴を聞かせに来たと思われるだろうかと。
はたして理解されるのだろうかと。
だから隠そうと、自分のことまで騙して生きてきた。

自分のことまで騙すのは、思い出したくないからだ。
2度とあのようなことを経験したくない。
もういちどあのような壊れ方をしたら、戻ってこれるだろうかと心配だからだ。壊れた自分を連れた私は、きっと夫から厄介者扱いをされ、ひどい仕打ちを受けるだろう。
仮にすぐに壊れるまでには至らなくとも、ずっと一緒にいれば、夫が定年退職して収入が減ったら、経済的精神的DVを受けるだろう。再起不能な状態に壊れるまで。


普段は忘れて暮らしているからだ。



自己反省を刷り込まれて生きているから、何かあれば自分のせいだと考え、
他人は変えられない 自分は変われる  という言葉を、自己否定の文脈で解釈する。
意図するかしないかに依らずそういう考え方の癖を利用する人間がいることに気づかない。
無自覚に他者の自責を利用している場合は、罪悪感がないからこそどこまでも他責に徹することができる。
それなのに、
相手が無邪気に笑顔を向ければその笑顔につられ、相手を悪く思った自分を反省してしまう。
相手は真底無邪気で、自身の他害性に無自覚だからこそ私欲を追求できるのだと気づかない。

気まぐれな好意を向けてくるのは、そのとき自身が足りているから余りものを分け与える気になっただけで、だからこそ自身が足りていないと感じるときには平気で奪い取ることができ罪悪感を覚えないのだと気づかない。
嗜癖のように自己反省を繰り返し、自己否定につなげてしまう。



もう、自分自身を逃がしてやろう。
じわじわと蝕むあの空間から。


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