飛べない鳥の飛んだ日

今日は特別な日だと君が言った。
ペンギン爆発の日だと。
ペンギン爆発?
僕は聞き返す。
待ってればわかる、と、君。

空に茶色の雲が現れ
形を変えながら近づいてくる。
やがてそれはいくつかに分かれる。爆発するように。
小さなカマタリが落ちてくる。落ちてくる。落ちてくる。
ばらばらに落ちてくる。
あちらに。こちらに。そちらに。一つはうちの庭に。
ペンギンってこんなに丸かったっけ。
丸いペンギンが土手を滑り降りる。
君は鳥を受け止める。
ひとかかえもあるペンギン。
嬉しそうだ。
鳥の短い手が君を抱きしめる。
君と鳥は喜び合う。
やがて鳥は誰かを手招きした。

土手を何かが滑り降りてくる。
茶色いふわふわの球。
ひな、だ。
親鳥が君にひなを託す。
君はひなを抱き、親鳥の手をにぎった。
そして親鳥は倒れる。

特別な日だった。
本来飛ばない鳥が
一生に一度、子連れの旅をする。
そうして
力を使い果たし
親鳥は死んでしまうのだ。

一筋流した君のなみだが
茶色のふわふわ羽毛に吸いこまれた。
僕は君ごとひなをかかえた。

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