思いを馳せるゴム
母が入院して8ヶ月が経った。コロナ禍という特殊な事情により一切面会は出来ていない。近々退院できる、そのうち退院になる、そう思って過ごしていたけれど、そうでもないのかもしれない。
週に1回日曜の決められた時間に洗濯物を取りにいく。最近は兄に任せきりだったが久しぶりに私が行くことにした。
片道1時間かけて洗濯物を届け、溜まった洗濯物を預かってくる。
「〇〇号室の△△です。洗濯物を持ってきました。」
「お預かりします。ラウンジでお待ちください。」
数分後ラウンジに来た看護士さんは洗濯物を手渡しながら
「はい。こちらよろしくお願いします。△△さんはいつもと変わりありませんので^^」
「わかりました。ありがとうございます。」
たった数分を終えてまた1時間かけて帰る。
もっと様子を聞けばいいのかもしれないけれど、看護士さんを手間取らせてもいけないと考えてしまう。
大切なことや体調については質問しても、細かいことは聞けないままだ。
お母さん髪の毛伸びてませんか?邪魔そうなら髪をまとめるゴムとかシュシュとか持ってきてあげたいなぁとか。
入院8ヶ月もたち長い髪を邪魔そうにして過ごす母の姿が浮かぶからなのだけど、細かすぎて聞けない。
直接会話ができないだけで、そんな小さな問いも片付かないでいる。
持って帰った洗濯物を洗おうと見ると驚くほどパジャマのパンツのゴムが伸びていた。しかも2着。伸び切ったゴムを無理矢理結んで履いているようだ。
これ着づらいだろうに…。
兄は気づかないのだろうか?気づいても兄も家の事や仕事で忙しぎて気が回らないのだろう。そもそも裁縫できたっけ?
多分母もそう思って縫ってとも言わずにいるんだろうな。
そんなことを考えながらパンツのゴムを入れ直すことにした。自分のものなら適当だけど、ずっと寝ている母がうつ伏せになってもゴムが当たって痛くないように、縫い目が当たらないように工夫して縫う。ほつれも綺麗に処理した。
今の私にできるのはこれくらい。
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