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【オギャー 番外編】
休憩って必要だよね!ということで、オギャーシリーズ3回目を目前に、もう番外編です。
入院中にあった忘れられない出来事について今日は触れたいと思います。
番外編は切らないので、長いです。
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3ヶ月に及んだ入院生活中は、多くの妊婦さんと出会った。
私のように出産に問題がある人以外は、帝王切開でも10日前後で退院していくため、その3ヶ月の間に同室の人は激しく入れ替わった。
入院、退院。入院、退院。
多くの人を見たその3ヶ月で、ひとり忘れられない人がいる。
名前も知らないその人は
「マんナカさんは、こちらのベッドになります。」
急遽入院になった私が案内されたのは、6人部屋の廊下側のベッド。
窓ないのか…外見えないな。
いや、いいや…なんも見たくなんかないし。
すでに部屋の他のベッドは埋まっていた。
その中、ふと目に止まったのは窓側のベッド。まっ昼間なのにカーテンが閉まっている。
それから数日立っても、そこのカーテンが開くことはなかった。時々看護師さんが出入りする以外は、誰もお見舞いに来ている様子はない。物音すらも聞こえてこない。
誰もいないのでは?と思うほどに。
時間が経つにつれ看護師さんの発言や同室の人の噂話で、カーテンの中の人について3つだけ知れた。
・かなり前から入院しているらしい
・どうやら切迫流産で絶対安静らしい
・出産予定日は4月2日らしい
4月2日、私と一緒だ。
ただ出産予定日が一緒というだけで、シンパシーを抱く。カーテンの中の人がとても気になったが、私も当時は自分の事で精一杯だった。
今日に明日に、子供が死ぬかもしれないと怯えていた毎日。
入院してから2週間くらい経った夜中のこと。
看護師さんがパタパタと部屋に入ってきたのが分かった。
就寝中なので全員がカーテンをしている。もれなく私もだが、カーテンを開けなくても足音だけで確認できる。あの人のところへ行ったようだった。
看護師さん
「…ボソボソ…ボソボソ…今、先生呼んでくるからねっ。」
そう言って出ていった数分しないうち
バタバタバタ バタバタ 数人が部屋に駆け込んで来た。
カチャカチャ ガチャガチャガチャ…
「○○さん!陣痛来ちゃったね。破水もしてるし、もうこれ以上赤ちゃんをお腹にいさせてあげられないんだ。今から出してあげなきゃだからね。わかった?大丈夫。大丈夫だよ!」
先生の声のボリュームから、緊迫した状況なのが伝わってきた。
ゴロゴロゴロ バタバタバタ
シーン…
あっという間にベッドごと連れて行かれてしまった。
「大丈夫だろうか。今、赤ちゃん出されたら…どうなるの」
眠れずに過ごした数時間後、静まりかえった部屋に人が入ってきた。
静かな足音が二つ。その足音はあの人のベッドがあったところへ向かった。
低い声。どうやら男の人が2人ボソボソと話している。
会話の内容は「葬儀」だった。
棺桶の大きさについても話していた。
「赤ちゃんダメだったんだ…。」
次の日、窓際にはベッドだけが戻っていた。その人はそのまま一度も部屋に戻ることなく退院していった。
同室の人の噂話が耳に入る。
「まだ30週だったみたいだよ。赤ちゃん片方の肺が出来てなかったんだって。かわいそうにね…。」
同じ出産予定日、聞いてるだけで苦しかった。
他人事ではない。
今日出されたら死んじゃうんだ…恐怖が増した。
それから1ヶ月過ぎたころ、私のところに見知らぬ女性がやってきた。
女性
「マんナカさん、こんにちは〜。」
私
「あ。はい…?(誰だろう)」
女性
「あの〜私、少し前まであそこに入院してた者なんです〜。」
彼女が指した先は、あの窓際のベッドだった。
私
「あっ。あぁ!」
わかりやすく驚く私に女性はかまわず続ける。
女性
「退院する時にね、ベッドに貼ってあるマんナカさんの出産予定日が見えて。同じだなと思って、つい気になって〜。あ、これどうぞ〜。」
わざわざ手土産を用意して来てくれたようで、おいしそうなケーキを手渡してくれた彼女は、拍子抜けするほど明るかった。
女性
「私は元気に生んであげられなかったけど、赤ちゃんはずっとお腹の中で頑張ってくれてたんです。うん。頑張ってくれてた。男の子だったんだよ〜。抱っこもさせてもらえたし。だから、その一緒に過ごした時間があるから大丈夫なんです。うん。」
「私はダメだったけど、マんナカさんはきっと大丈夫。大丈夫だから!」
子供を亡くした1ヶ月後に、出産予定日が一緒というだけで、赤の他人にそんな言葉をかけられるなんて。
「じゃ、私はこれで。頑張ってねっ。」
そう言って女性はそのまま帰っていった。
名前も聞けず、ただ出産予定日が一緒というだけのシンパシー。
きっと大丈夫!なんて言葉になんの根拠もない。
それでもその時の私には、とてもとても力になった。
あれから20年。あの人がどうか幸せでありますように。