勇気を出して
○十年前、当時デザインの専門学校生だった私は、地元企業の入社試験を受けた。デザイン部署志望のため、試験項目は4つ。
面接・ポートフォリオ(過去制作作品)の提出・デッサン・テーマに沿ったイラスト制作
ピンチはイラスト制作でやってきた。
「宮沢賢治の作品を題材にイラストを描いてください。」周りからカリカリと鉛筆の音が聞こえ始める中、私はただ1人考える。
宮沢賢治わっかんねぇ
当時、「活字なんてしゃらくせぇ」と思っていた派。有名な作家という事はほんのり知ってはいても、作品は何ひとつ知らなかったし、教科書の内容すら危うかった。
どう絞ろうにも何も出てこない。
腹をくくって手を挙げる。
銀河鉄道の夜など読んだ事あるはずもなく。試験官だった専務の引き具合を感じ、それ以上は聞かずに席に着いた。
もう聞けない。聞かない。描くしかない。
銀河鉄道の夜…
銀河鉄道っていったら999(スリーナイン)!
私は鉛筆を走らせた。描くしかないんだよ、スリーナインを。
汽車に999と描いていないだけの、どう見てもスリーナインの絵を描き上げ提出。
結果 内定獲得。
あんなに抜けた質問をしたのになぜなのか。入社して数年たったある日の朝礼で、その謎は解けた。
たぶん私の首を繋いでくれた言葉は
宮沢賢治がわかりません。
あの日の自分、グッジョブ。
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